第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――決断
柿谷の鋭い問いに私はハッとした。ディザスターの存在があまりにも強烈だったせいで、肝心の人々のことをすっかり失念していたのだ。当主と名乗っていた上野隆一の皮を被ったディザスターがこの屋敷を自由に動いていた。だとすれば、本当の当主である上野宗一や執事たちはいったいどこにいるのか。
「ふははは。なるほど。確かにその質問は重要だ。見事だ、柿谷君」
ディザスターの口元が三日月のように歪む。今度は嘲笑ではなく、本心からの感嘆のようだった。
「この状況下で、他人の心配をする君の優しさ……とても興味深い。俺は少しだが、君に興味が出てきたぞ」
今度は熱い視線を向けられた柿谷は、その視線から逃れるように全力で首を横に振った。
「いやいや、絶対にお断りする」
「そうか。それは残念だ」
「それより早く教えろ!」
「ああ、すまないね。ここにいた人間たちはみんな地下室で穏やかに寝ているよ」
その言葉に、私と柿谷は同時に安堵の息を吐きかけた。
だがディザスターの次の言葉が、私たちの心臓を再び凍りつかせる。
「ただ、これだけの負の念が漂っているんだ。地下室にいる人間が大丈夫かと聞かれると果たして――」
「おいおいマジかよ!」
柿谷は青ざめた表情で数歩後退した。その目は、ディザスターではなく屋敷の方角に向けられている。
「負けんなよ翔太!」
「お前こそな!」
私は柿谷の背中を見送りながら小さく笑みを浮かべた。あいつはあいつでやるべきことを見つけたらしい。
オカルトライターとしての好奇心ではなく一人の人間としての良心で動ける男だ。
それが、私の親友であることを誇らしく思う。
「行ってしまったか」
ディザスターが残念そうに呟いた。しかし、その視線はすぐに私へと戻ってくる。
「さて紅翔太。これで邪魔者は消えた。君と私だけの舞台だ」
私はチラリと蔵の方角に目を向けた。
ご神木が必死に結界を維持しているにもかかわらず蔵の壁のいたるところから、どす黒い負の念が煙のように溢れ出している。それはまるで今にも決壊しそうなダムから水が漏れ出るかのようだった。
「やはり……彼女一人の力では完全に抑えきれないか」
ご神木は先ほど『浄化の炎』で浄化されたことで、二、三時間は持ちこたえられると言っていた。だがそれはあくまで延命に過ぎない。蔵の中の負の念が増え続ける限り、いずれ限界が来る。
「ならば……」
私は左腕のブレスレットに手を触れた。三色の宝石が私の意思に呼応するように激しく脈打ち始める。




