第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――向けられる殺意
「それはディストレイという神機もそうだが、何よりそれを使う契約者が優秀だからだと、俺は思っている」
獲物を狙う猛禽類のような瞳が、真っ直ぐに私を捉える。
逃げ場はない。
いや、そもそも逃げるという選択肢は最初から存在しなかった。
(これは……逃げられないな)
私は腹をくくり、ディザスターを見返した。
「歴代の契約者同様、君にその力があるのか、試させてもらおう。そして――」
ディザスターの視線が、今度は柿谷へと移る。
柿谷は一瞬息を呑み、無意識のうちに半歩後退した。彼の手は、ショルダーバッグの中でマッチの箱を握りしめている。オカルトライターとして数々の怪奇現象に立ち会ってきた彼だが、今回は相手が格段に違う。それでも彼は、逃げ出さずにその場に踏みとどまっていた。
「柿谷君。君はただの人間……いや、霊能力者だな」
ディザスターはしげしげと柿谷を観察するように見つめた後、小さくため息をついた。
「残念ながら、俺は君に関心がない」
柿谷の顔が一瞬で強ばる。恐怖と屈辱が入り混じったような、複雑な表情だった。
「かと言って、君の命を奪う必要性もないと感じている。君はただの人間で、俺の目的はあくまで紅翔太との戦いだからな」
威圧を込めた瞳が柿谷を貫く。その視線はまるで心臓を直接掴まれたかのような重圧を伴っていた。ディザスターの濁った瞳の奥で、何かがギラリと光る。
「邪魔をするのならば……」
彼の声が一瞬低くなり、周囲の空気が凍りつく。
「残念ながら、君の命を奪わねばならなくなる。そのような愚かな選択……しないでくれることを願うよ」
柿谷は一瞬息を呑んだ。
額に冷や汗が浮かび、唇がわずかに震えている。
しかし次の瞬間彼は眼鏡のブリッジを押し上げ不敵な笑みを浮かべてみせた。
「……はっ。心配すんなよ。俺はただのライターだ。前線で戦うほど無謀じゃない」
軽口を叩いているがその声にはかすかな震えが混じっている。
無理もない。
『恐怖』を司るパラサイトと対峙しているのだ。
それでも彼は、親友の隣に立ち続けている。
「柿谷……」
「大丈夫だ翔太。俺は自分の身は自分で守れる。それよりも、ディザスター。俺はお前に一つ訊かなければならないことがある」
柿谷の思いがけない反応にディザスターはわずかに目を見開いた。その表情には、これまでの余裕や威圧とは違う純粋な驚きの色が浮かんでいる。
「ほう。いいだろう。俺だけが一方的に条件を従わせるのはフェアではないからな」
「上野家……いやこの屋敷にいた人々を、どこへやった!」




