第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――目的
「ディザスター……また面倒な奴が出てきたな」
「それより上野隆一はどうした! 死んだのか!」
柿谷が震える声で叫ぶ。彼の指は無意識にショルダーバッグの中のマッチを探っている。
「心配するな。あの男は十年前に死んでいる。俺はその皮を借りていただけに過ぎない」
「十年前だと……?」
私の脳裏に、ご神木の言葉が蘇る。
十年前に土地神が上野家との契約を破棄した。
その時期と、ディザスターが上野隆一の皮を被った時期が重なる。
「そうだ。濃厚な負の念に誘われ、この土地に来たのが十年前。当初は、その蔵の下にいる存在ごと喰らってやろうと思っていた」
ディザスターの濁った瞳が、蔵の方角に向けられる。
「しかし、さすがは落ちていても神。我の力では不可能だと悟った。ならばと、あの存在を開放すれば、濃厚な負の念が集められると気づいたのだ」
「それで……土地神と取引をしたのか」
「察しがいいな。私はあの神と取引をして、この土地からの解放を約束した。その代わりに、外の世界へ出る手助けをするとな」
ディザスターの口元が、三日月のように歪む。
「そして今日、その約束が果たされる。あと数時間もすれば、あのご神木は枯れる。封印が解かれ、邪神が解き放たれる。その時、この地はかつてない恐怖に包まれるだろう」
私は拳を握りしめた。
「お前の目的は何だ。ただ負の念を集めたいだけなのか」
「それもある。負の念こそ力の源。どんなことをしても欲しいのは至極当然のことだ」
ディザスターは両手を広げ、まるで舞台の主演俳優のように語り始めた。
「それと、落ちた神の力を見定めること。果たしてグリード様の脅威となり得るかどうか――それがこの十年間、私がこの地に留まっていた理由の一つだった。だがね」
ディザスターの濁った瞳が、真っ直ぐに私を見据えた。
その視線だけで、肌が粟立つような悪寒が走る。
「ここでもう一つ、目的が増えた」
「……なんだ」
「君と戦うことだ」
私は思わず息を呑んだ。
「何だと……?」
「正確には、ディストレイに乗った君と、だがね」
ディザスターはゆっくりと私に向かって歩み寄ってくる。その足音は、まるで心臓を直接握られているかのような不快な重さがあった。
「先ほども言ったが、ディストレイは幾度となく我らの前に立ちふさがった。その度に俺は戦った。あの時の高揚感は、今でも忘れることはない」
ディザスターの声が熱を帯びていく。
それは、長年の宿敵との再会を心から喜ぶような、歪んだ歓喜の声だった。




