第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――その名はディザスター
その瞬間、上野隆一は何の前触れもなく右手のひらをこちらに向けた。その手のひらに、瞬く間に黒い球体が形成される。それは負の念を極限まで凝縮したものだった。周囲の空気が歪み、地面の小石が浮き上がる。
「なっ!」
黒い球体が矢のように放たれ、空気を切り裂き、一直線に私の胸元へと迫る。
「くっ……!」
私は反射的に右手を突き出し『浄化の炎』を発動させた。真紅の炎が手のひらから噴き出し、黒い球体を正面から迎え撃つ。ジュッという音とともに、負の念が浄化されて消滅する。だが、その衝撃で私の腕はしびれ、足元がわずかに後退した。
「おお……!」
上野隆一が感嘆の声を上げる。その目は見開かれ、口元には歓喜の笑みが浮かんでいた。
「数百年ぶりだ、この忌々しい聖なる炎を見るのは。そして、それを使えるのは、ディストレイと契約した者だけだ」
まるで仇敵に再会したかのようなその態度に、私はどう反応していいかわからなかった。喜んでいるのか、憎んでいるのか。あるいは、その両方なのか。いずれにせよ、その不気味さに背筋が冷たくなる。
「おお、これはすまなかったね」
突然、上野隆一が申し訳なさそうに頭を下げた。
「俺だけが君を理解しているというのは、不公平というものだ。よかろう。俺も、本当の姿で君と話そう」
その言葉と同時に、上野隆一の口からどす黒い煙が溢れ出した。煙は意思を持っているかのように、彼の体全体を包み込んでいく。そして、信じられないことに、彼の体は風船がしぼむようにどんどん萎んでいった。皮膚がたるみ、骨が縮み、やがてそれはただの人皮と化して地面に落ちる。
「な……なんだこれ……!」
柿谷が後退りながら悲鳴を上げる。
私もまた、目の前の光景に啞然としていた。萎んだ上野隆一の皮が地面に落ちる一方で、口から溢れ出した黒い煙は、ゆっくりと人の形を形成していく。
やがて、煙が完全に収束した時、そこには一人の男が立っていた。
年齢は三十代半ばといったところか。端正な顔立ちで、スーツ姿の長身。一見すると、どこにでもいるビジネスマンのように見える。しかし、その瞳だけは違った。どす黒く濁ったその目は、見る者すべての恐怖を吸い取るかのように、底知れぬ闇を湛えている。
「俺の名はディザスター。デスシャドウ様を守護する七つのパラサイトの一つ。司る感情は『恐怖』だ」
「ディザスター……!」
私は思わず身構えた。
ナイトメアに続き、また一人、七つのパラサイトが現れたのだ。
しかも、今回は直接対面している。




