第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――上位存在出現
「くそっ……さっきまで普通だったのに……」
柿谷が額の汗を拭いながら悪態をつく。
「気を抜くなよ。この負の念の中心は……やはり蔵だ」
私たちは、重い足を引きずるようにして、あの巨大な蔵の前までたどり着いた。白壁の土蔵は、さっきと変わらぬ姿でそこに建っている。しかし、その周囲だけが、さらに濃密な闇に包まれていた。
「紅さんではないですか」
背後から聞こえた声に、私は勢いよく振り返った。
そこに立っていたのは、先ほどまで私たちと会話していた老人――上野隆一だった。彼は相変わらず品の良い笑みを浮かべ、ゆったりとした動作で私たちに近づいてくる。
「どこへ行かれていたのですか? 急に姿が見えなくなったので、心配していたのですよ」
「……ちょうどよかったです」
私は右手のひらに、いつでも『浄化の炎』を出せるように準備しながら、静かに言った。
「当主――いえ、先代とおっしゃった方がよろしかったですか?」
その瞬間上野隆一の笑みが、ピシリと凍りついた。
「……ほう」
彼の体から、どす黒い負の念が噴き出し始める。それはさっき蔵から溢れ出したものとは比べ物にならないほど濃密で、まるで生き物のようにうねりながら、あたり一帯を包み込んでいく。
「おやおや、どこからその情報を……」
上野隆一は、私たちが来た方向――ご神木のある方角に目をやった。その瞳は、もはや人間のものではなかった。白目が黒く染まり、瞳孔が縦に割れている。
「ああ、あそこには確か、死にぞこないの樹木がいたな。あれがまだ生きていたとは。しかし、もう長くはあるまい。どのみち数時間で枯れる運命だ」
「ふむ。確かにパラサイトグリードではあるかな」
上野隆一の口元が、わずかに歪んだ。その答えはあまりにも要領を得ず、私は眉をひそめる。
パラサイトグリードであることは間違いない。しかし、ただのパラサイトグリードではない、この圧倒的な存在感。電話回線を通じて呪いを送り込み、六人の鑑定士を次々と事故に見舞わせた力。そして何より、私の『浄化の炎』を目の前にしても、まったく動じない余裕。
「……もしや、ナイトメアと同じ上位の存在か?」
私がその名を口にした途端、上野隆一から漂う空気が一変した。それまでの余裕に満ちた笑みが消え、その目に宿ったのは、歓喜とも憎悪ともつかない、歪んだ感情の奔流だった。
「ほう……ナイトメアに会ったのか」
「……知っているのか」
「当然だ。あれは我らが同胞。七つのパラサイトの一角。であれば、君がディストレイの契約者だな」




