第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――偽物
「……どういうことだ?」
「上野宗一が当主……? じゃあ俺たちがさっきまで話してた爺さんは……どういうことだ、翔太?」
私は頭の中で情報を整理しようとした。
私たちは確かに上野隆一という老人に会った。彼は自分が当主だと名乗り、蔵の鍵を渡し、曰く付きの品々について説明した。
しかしご神木は、現在の当主は息子の上野宗一だと言う。
つまり、あの老人は――
「偽物……?」
「だとするなら、偽物の目的は何なんだ?」
「……話の内容から考えると、あの蔵の下に封印されている土地神様の解放、だろうね」
「ってことは、あの老人はパラサイトグリード⁉」
「いや、パラサイトグリードならば、あそこまで長時間実体を持つことは不可能――」
柿谷が青ざめた顔で私を見る。
「翔太……もしかすると俺たち、とんでもない相手と普通に会話してたんじゃ……」
「……ああ」
私は右手に『浄化の炎』を灯しながら、先ほどの老人の顔を思い出していた。穏やかな笑みを浮かべた品の良い老人。身内に広がる不幸に心を痛めていた顔が思い出される。
しかし、今思い返せば、あの笑みや悲しみの奥には、何か底知れぬものが潛んでいたように思える。
「これは一度、きちんと話し合うべきだな。あの男が何者なのか確かめる必要がある」
「なら早く行こうぜ!」
柿谷が駆け出そうとしたその時、ご神木が鋭い声で警告を発した。
(お待ちください! 外の様子が、変わっています……!)
私たちは足を止め、互いに顔を見合わせた。
「外の様子が変わっている……?」
(はい。先ほどまで昼間の陽気だったはずですが、今は……外へ行かれるのなら気を付けてください)
ご神木の言葉を聞きながら、私は結界の出口へと歩み寄った。そして、意を決して結界の外へと足を踏み出す。
「な……んだ、これは……」
私は絶句した。柿谷もまた、言葉を失っている。先ほどまで私たちが歩いてきたはずの庭園は、見る影もなく変わり果てていた。空はどんよりと暗く垂れ込め、昼間だったはずの時間が、今は夕暮れのように薄暗い。庭園の木々は枯れ果て、池の水は濁りきって異臭を放っている。そして、母屋の方角からは、おぞましい気配が立ち込めていた。それは、さっき蔵の扉を開けた時に感じた負の念よりも、はるかに濃密で、強力なものだった。
「これは……まるで、別の場所に迷い込んだみたいだ」
「ああ。どうやら俺たちはとんでもない場所に足を踏み入れてしまったらしい」
立ち込める負の念は、目に見えぬ重石のように私と柿谷の体にのしかかっていた。




