第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――奴は誰だ
私は頷き、右手を掲げた。
「じゃあ、相棒。右腕だけを召喚するぞ」
『うむ』
私の背後に、小さな魔方陣が展開される。そこから現れたのは、ディストレイの巨大な右腕だけだった。真紅の装甲に包まれた腕がご神木を掴む。
(な、何を⁉)
「ご心配なく。あなたの体を蝕む負の力を浄化するだけですから。では、『浄化の炎』!」
私の掛け声を合図に、ディストレイの右腕から真紅の炎が噴き上がった。それは私が普段使用している炎よりも、はるかに大きく、はるかに温かい。負の念を糧に燃え上がる癒しの炎が、ご神木の体内の穢れを浄化していく。
(ふおお……!)
ご神木の精霊が驚きの声を上げた。光の球体が激しく明滅し、その輝きが徐々に強くなっていく。
(これはすごい……! 全体に広がっていた負の力が、どんどん消えていくのがわかる……!)
ご神木の幹や枝に絡みついていた黒い靄が『浄化の炎』に焼かれて消えていく。
葉の色が、さっきまでのくすんだ緑から、鮮やかな緑へと変わっていった。
(根から吸い上げられる負の力も、炎の力で浄化していっている……! これならば、二、三時間は軽く耐えられそう!)
ご神木の声が、さっきまでの哀しげな響きから、驚きと喜びに満ちたものに変わっている。
「よかった……」
私は安堵の息を吐き、ディストレイの右腕を元の次元へと戻した。魔方陣が消え、あたりは再び静寂に包まれる。
「これで少しは時間が稼げたな」
「ああ。だが、まだ問題は山積みだ」
私は柿谷に向き直った。
「まずは当主にこの事態を説明して、家中の者たちを避難させなければ。これから何が起きるかわからない。少なくとも、一般人を巻き込むわけにはいかない」
柿谷が神妙な顔で頷く。
「そうだな。あの爺さんがどこまで理解してくれるかはわからんが……しかし、あの話を聞いたらショックで心臓が止まらないか? 自分の家が五百年前から邪神と取引してたなんて、普通の神経じゃ耐えられないだろ」
「そこはまあ、話し方次第だ。できるだけ穏便に伝えるしか……」
その時、ご神木が私たちの会話に割って入った。
(……あなたたちは一体、何の話をしているのです?)
その声には、先ほどの喜びとは別の困惑が混じっていた。
「もちろん、上野家の当主、上野隆一殿のことですが」
(何を言っているのです。現在の当主は、息子の上野宗一のはずです)
私は言葉を失った。
柿谷もまた、目を見開いて固まっている。ご神木の言葉が、すぐには理解できなかった。




