第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――過去話
「おいおいおい……冗談だろ? あの蔵の中の負の念だけで、俺たちは手も足も出なかったんだぞ。なのに、あれが微々たるものだって……」
柿谷の声が震えている。オカルトライターとして数々の怪奇現象に立ち会ってきた彼ですら、これほどのスケールの話は初めてなのだろう。
私は黙って考え込んだ。
蔵の扉を開けた瞬間、あれだけの負の念が噴き出してきた。それだけでも十分に異常なことだ。
しかし精霊は、あれは微々たるものだと言う。つまり、我々の知らない、もっと巨大な何かが、あの蔵には存在しているのだ。
「説明してほしい」
私は光の球体をまっすぐに見据えた。
「あなたが結界で封印している存在は何なのか? あの蔵の地下には、いったい何があるのか? そしてこの土地が消えるという意味とは?」
光の球体は、しばらく沈黙した。風が吹き抜け、ご神木の葉がさわさわと音を立てる。その音は、まるで古い記憶を呼び覚ますかのようだった。
(……わかりました。神の力を持ちし人の子よ、今から話すことは、長い長い、昔話です)
精霊は静かに語り始めた。
「五百年前――この場所には、小さな村がありました」
精霊の声が、静かに物語を紡ぎ始める。光の球体が淡く揺らめき、その輝きがまるで昔語りの絵巻物のように、私たちの脳裏に映像を浮かび上がらせた。
山々に囲まれた小さな谷間。田畑が広がり、茅葺き屋根の家々が点在している。村人たちは貧しいながらも、助け合いながら懸命に生きていた。朝には鶏が鳴き、子供たちは野山を駆け回り、大人たちは汗を流して田を耕す。
「その村を、この地にいた土地神様は、それはもう微笑ましく見守っておりました」
映像の中に、かすかな光の輪が浮かび上がる。
それが土地神の姿なのだろう。
村を見下ろす小高い丘の上で、優しく輝いていた。
「しかし、ある日のことです」
映像が一変する。
静かな村に、武装した兵たちが雪崩れ込んでくる。数は優に百を超えている。村人たちは恐怖に震え、家の中に隠れた。
「この村まで逃げてきた兵を差し出せ、と兵たちは言いました。もちろん村人たちは、そんな兵など知りません。正直にそう伝えました。しかし……」
兵たちの態度が豹変する。彼らは無抵抗の村人たちに向かって刃を振るい始めた。
「あろうことか、兵たちは村人を無差別に殺し始めたのです」
映像に映る惨劇に、私は思わず目を背けそうになった。戦いなど経験したことのない村人たちが、武装した兵に敵うはずがない。




