プロローグ 出現受肉
私の提案を三人は戸惑いながらも首を縦に振って了承する。
廃病院の空気はまだ重いが、あの圧倒的な負の気配は薄れている。
元々はこんな場所なのだろう。
「よし。これで任務完――」
だが、私の安堵は長くは続かなかった。
強烈な霊波動が周囲を包み込んだのだ。
「⁉ これは……やはりまだ強烈な奴がいたのか?」
これだけ周囲に及ぼす力を持っているということは、霊体や半霊体ではない。
「この力を考えると……出てくるのは受肉か」
地下のさらに奥、闇の深淵から、何かが目覚めようとしていた。
私の左手のブレスレットが熱を持つ。
受肉となった以上、私の『浄化の炎』では、残念ながら太刀打ちできない。
受肉を倒せるのは古の言葉で神の剣と呼ばれているディメンダムだけ。
そしてそのディメンダムが主の危機を知らせているのだ。
「三人とも、すぐにここから出るぞ」
地震で狼狽えている三人に喝を入れて安全な場所へ避難させる。
地下深くから響いた轟音は、単なる地響きではなかった。コンクリートの床が脈打ち、壁が悲鳴を上げてひび割れていく。廃病院そのものが、何者かの復活を拒否するかのように軋み、崩壊を始めた。
「な、なんだこれ!?」
「ひいいいい」
助け出した三人の若者が悲鳴を上げる。瓦礫が頭上から降り注ぐ中、私は彼らを庇いながら外へと促した。
「急げ! 崩れる!」
彼らを出口付近まで押し出した瞬間、地下の闇が爆ぜた。黒い泥のような塊が床を突き破り、天井を貫いて噴出する。それは途方もなく巨大で、病院の構造を紙くずのように粉砕しながら隆起した。
「あーあ、出ちまったか……!」
完全に実体を持ったパラサイトグリード。
生きとし生ける全ての敵にして、最大の脅威。
暴走した負の感情の塊が、眼前で異形の山と化していた。
すぐに私はポケットからスマホを取り、清水に連絡を入れる。
「もしもし!」
『もしもし、紅さん。こちらでも確認しておりますので、二十秒以内にサテライトからビームが照射されます』
「了解だ。こちらも今から戦闘に入るため、ディメンダムを召喚させてもらう……許可が必要か?」
『もちろんNOです。その力でパラサイトグリードをせん滅してください』
通話が消えると同時に、星々のカーテンの間から光がK地区へ降り注がれる。




