第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――神聖な場所
ディストレイの声には、これまでにない動揺が滲んでいた。何百年、いや何千年もの時を生きてきた巨神が、これほど戸惑うとは。
『さらに奇妙なのは、時間の流れだ。この土地の記憶は、あまりにも長すぎる。400年以上も前からこの土地は何かを封じ続けている』
「400年以上ってことは江戸時代よりも前……戦国時代?」
『ああ。私の力をもってしても、その全貌を掴むことはできなかった。こんなことは……初めてだ』
私と柿谷は、思わず顔を見合わせた。巨神ですら読み取れない土地の記憶。それは、この場所がただの旧家の屋敷などではないことを意味していた。
『だが、一つだけわかったことがある』
「なんだ?」
『この屋敷の奥に、かすかだが神聖な気配を感じる。非常に弱々しく、今にも消え入りそうなほどだが……間違いなく、この土地の中心だ』
「神聖な気配……?」
『ああ。そこへ行け。何か手がかりが掴めるかもしれない』
私は立ち上がり、ズボンについた土を払った。
「柿谷、行くぞ」
「え? どこに?」
「この屋敷の奥だ。何かあるらしい」
私たちはディストレイの案内に従い、母屋のさらに奥へと足を進めた。庭園を抜け、竹林を横切り、人の手が入っていないような獣道を進む。上野当主でさえ、おそらくこの場所の存在を知らないだろう。それほどまでに、この奥は深く、そして隠されていた。
やがて、目の前に奇妙な空間が開けた。
そこだけが、ぽっかりと異質な空気に包まれている。空気の密度が違う。肌にまとわりつくような霊的な圧力が、私たちの前に立ちはだかった。
「なんだ、この感じ……」
「結界だ。それも、かなり古い。普通の人間なら、この場所に近づくことすらできないだろう」
私は左手のブレスレットを前に掲げた。三色の光が強く輝き、目に見えない壁を溶かしていく。結界が、私たちを受け入れるように、ゆっくりと道を開いた。
結界の内側に足を踏み入れた瞬間、私たちは息を呑んだ。
そこには、巨大な樹木が立っていた。
幹の太さは大人が五人で手を繋いでも囲みきれないほどで、枝は天に向かって大きく広がっている。樹齢は優に千年を超えるだろうか。葉は深い緑色に輝き、生命の力に満ち溢れているように見えた。しかし、その輝きには、どこか儚さも混じっている。まるで、長い年月の中で徐々に力を失ってきたかのように。
ディストレイの声が、かすかな哀しみを帯びて響いた。




