第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――対策
だが今、その結界が限界を迎えつつある。
中の負の念が飽和状態になり、外に漏れ出し始めている。それが、電話回線を通じて鑑定士たちを襲った呪いの正体であり、上野家に降りかかる不幸の原因でもある。
というのが私なりの考えである。
(もし、これが当たっていたとしたら、問題は……このまま蔵を開け続ければ、どうなるか、だな)
私は立ち上がった。
「当主、状況はおおよそ理解しました。ですが、蔵の中の負の念は、我々の想像をはるかに超える規模です。生半可な方法では、かえって災いを広げることになりかねません」
「では……どうすれば……?」
「少しお時間をください。どうするか考えますので」
当主と別れてから、すでに二時間が経過していた。
私たちは蔵の前に戻り、重い扉を背にして、途方に暮れながら地面に座り込んでいた。時折吹き抜ける風が、庭の木々を揺らし、さわさわと葉擦れの音を立てる。空は相変わらず分厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうな気配だ。
「なあ、翔太。あれから何かいい案は浮かんだか?」
「……ダメだ。『浄化の炎』で焼き尽くす以外に、あの量の負の念を安全に処理する方法が思いつかない」
私は頭を抱えた。
『浄化の炎』は強力だが、それを使えば蔵が何日も燃え続けることになる。近隣住民への被害を考えれば、それは最終手段でしかない。
「かといって、このまま放置すれば、負の念がさらに漏れ出して、もっと多くの人間が被害を受ける……」
柿谷が深いため息をつく。彼の手には、例のノートが開かれているが、そこに書かれたメモも途中で止まっていた。
『主よ』
不意に、ディストレイの重厚な声が私の脳裏に響いた。
「相棒、どうした?」
『この土地の記憶を見てみるのはどうだ。あの蔵がいつ、何のために建てられたのか。それを知れば、解決の糸口が掴めるかもしれない』
「おお、その手があったか」
以前、依頼者の井上さんお家で起こった呪いの骨董品事件や、ダムの事件の時にディストレイはその地に干渉してその場所の記憶を読んでいたことを思い出した。
「よし、頼んだぞ、相棒!」
『了解だ』
ディストレイの意識が、ゆっくりと周囲の大地へと浸透していくのを感じた。ブレスレットの光が、脈打つように明滅する。
しかし――
『……む?』
数分後、ディストレイの声が困惑に包まれた。
『読めない……いや、拒否されている?』
「拒否?」
『この土地そのものが、私の干渉を拒んでいる。まるで、暴かれたくない秘密を必死で隠そうとしているかのようだが……』




