第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――上野家の歴史
「代々の当主たちは、この言い伝えを忠実に守ってきました。私もまた、若い頃は世界各地を飛び回り、様々な曰く付きの品を買い集めたものです」
上野当主の顔に、かすかな苦渋の色が浮かんだ。
「では、なぜ今回はその品を売ろうと?」
私の問いに、上野当主は深くため息をついた。
「ここ数年、上野家には不幸が続いております。私の妻が病に倒れ、長男は事業に失敗し、孫は原因不明の病で入院しております。先月には、私自身も軽い心臓発作を起こしましてな」
「それは……お気の毒に」
「最初はただの偶然だと思っておりました。しかし、あまりにも不幸が続く。そして、ふと気づいたのです。これらの不幸は、ちょうど私が最後に曰く付きの品を蔵に納めた頃から始まっている、と」
上野当主の手が、かすかに震えている。
「私は思いました。もしかすると、あの言い伝えは間違っていたのではないか。あるいは、蔵の中の品々が、あまりにも多すぎて、封じきれなくなっているのではないか、と」
「それで、蔵の中の品を整理し、売却しようと?」
「はい。曰く付きの品を手放せば、この不幸も終わるのではないかと。しかし、私にはどれが曰く付きで、どれが普通の骨董品なのか、見分けがつきません。そこで、専門家である鑑定士の方々に依頼をしようと……」
私は話を聞きながら、腕を組んで考え込んだ。なるほど、筋は通っている。しかし、一つだけ腑に落ちない点がある。
「当主、一つお聞きしますが、あの蔵自体については、何かご存知ですか? いつ建てられたものか、誰が設計したものか」
「それが……」
上野当主は首を振った。
「あの蔵だけは、どうにもわからないのです。江戸時代の初期、初代当主がこの地に屋敷を構えた時には、すでに建っていたと伝えられています。誰が、何のために建てたのか、記録は一切残っておりません」
「江戸時代から……」
「はい。私どもの家系は、その蔵を中心に屋敷を拡張してきたのです。蔵の中には、いたるところに古い札が貼られておりますが、それも誰が貼ったものなのか……」
私は柿谷と顔を見合わせた。
「つまり、あの蔵そのものが、何かを封じ込めるために建てられた可能性がある、と」
「おそらくは。しかし、それが何なのかは、私にも……」
上野当主の言葉を聞きながら、私の頭の中では、ある仮説が形を成し始めていた。
あの蔵は、単なる倉庫ではない。
おそらくは、巨大な結界そのものだ。
そして、世界中から集められた曰く付きの品々は、結界の一部として機能していたのかもしれない。




