第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――蔵
「これはまた……立派な蔵ですね」
「ありがとうございます。江戸時代に建てられたものを、明治に増築し、さらに大正にも拡張しております。現在では、この中に先祖代々の蒐集品が所狹しと収められております」
蔵の入り口には、年代物と思われる分厚い木製の扉が取り付けられていた。
そして、その扉を固く閉ざしているのは、掌ほどの大きさもある古びた南京錠だった。
「この蔵の鍵は、代々当主のみが管理しております。私の祖父の代から、中に何があるのか正確に把握している者はおりませんで……」
上野当主はそう言いながら、懐から取り出した大きな鍵を私に手渡した。ずっしりと重い、真鍮製の鍵だ。
「この鍵でお入りください。中はかなり散らかっておりますが、どうかご自由にご覧になってください」
「ありがとうございます」
私は鍵を受け取り、柿谷と顔を見合わせた。
「じゃあ、早速中を見てみるか」
「ああ」
私は南京錠に鍵を差し込み、回した。カチリという重厚な音がして、錠が外れる。南京錠を外し、扉の取っ手に手をかけた。
ギィィ……
蝶番が錆びついているのか、重い音を立てて扉が開いていく。
その瞬間――
「うわっ!」
「なにっ……⁉」
ドォン!!
蔵の中から、目に見えるほどのどす黒い靄が噴き出してきた。それはまるで、長年閉じ込められていた猛獣が一斉に檻から飛び出すかのような勢いだった。負の念の塊だ。それも、これまでに感じたことのないほどの濃密で、強力な気配。
「しまれ!」
私はとっさに扉を押し戻し、ガチャリと南京錠をかけた。鼓動が早鐘のように鳴っている。額には冷や汗が浮かんでいた。
「はあっ……はあっ……」
柿谷もまた、青ざめた顔で息を荒げている。
「な、なんだ今のは……」
「負の念だ。それも、とんでもない量だ。蔵の中全体が、負の念で満たされている」
私は左手のブレスレットを見下ろした。三色の光が激しく明滅し、今までにないほどの熱を発している。
(これほどの負の念……いったい、この蔵の中で何が起きているんだ……?)
柿谷が青ざめた顔で、蔵の扉をじっと見つめながら言った。
「翔太、お前の『浄化の炎』であの負の念を浄化できないのか?」
私は首を横に振った。
「無理だ。さっき一瞬で感じただけでも、中の負の念はとんでもない規模だ。もし『浄化の炎』を使えば、負の念が完全に消えるまで蔵全体が燃え続けることになる」
「燃え続ける……?」
「ああ。『浄化の炎』は負の念を糧にして燃え上がる。中の負の念があれだけ膨大だと、おそらく数時間どころか、数日間は燃え続けるぞ」




