第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――上野家
私たちは結局、正門を見つけるまでに十五分近くも敷地の周囲を回ることになった。ようやくたどり着いた正門は、重厚な欅造りの冠木門で、両脇には見事な松の木が植えられている。
インターホンを押すと、すぐに和服姿の初老の男性が現れた。執事か、あるいは番頭のような立場の人だろう。
「紅様でいらっしゃいますか。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
門をくぐると、そこには手入れの行き届いた広大な日本庭園が広がっていた。池には錦鯉が優雅に泳ぎ、灯籠や飛び石が風情を醸し出している。奥に見える母屋は、少なくとも築百年は経っているであろう風格を漂わせていた。
「すげえな……」
柿谷が感嘆の声を漏らす。
「お車はこちらの駐車場へ。当主が奥でお待ちでございます」
案内人に従って車を駐車場に停め、私たちは母屋へと足を踏み入れた。廊下は磨き込まれた板張りで、一歩歩くごとにギシリと心地よい音が響く。壁には掛け軸が掛かり、床の間には季節の花が活けられていた。
案内されたのは、二十畳はあろうかという広々とした応接間だった。大きな窓からは庭園が見渡せ、雨上がりの緑が目に鮮やかだ。
「よくお越しくださいました。私が当主の上野隆一です」
部屋の奥から現れたのは、七十代半ばと思われる品の良い老人だった。白髪をきっちりと後ろに撫でつけ、仕立ての良い和服を身に着けている。立ち居振る舞いには、長年この家を取り仕切ってきた当主としての貫祿が漂っていた。
「アンティーク紅の紅翔太です。こちらは助手の柿谷です」
「柿谷信也と申します。本日はお邪魔します」
私たちが名刺を差し出すと、上野当主は丁寧にそれを受け取り、にこやかに笑った。
「遠いところをわざわざありがとうございます。実は、今回の鑑定依頼には少々事情がございまして……」
「事情、ですか?」
「ええ。実は、これまでにお願いした六人の鑑定士の方々が、皆様何らかのご不幸に見舞われまして……」
上野当主の顔に陰りが差す。どうやら彼も、一連の事故については気に病んでいるようだ。
「お気になさらないでください。我々はそういった話を聞いても大丈夫ですから」
「そうですか……ありがとうございます。それでは早速、蔵の方へご案内しましょう」
上野当主に連れられ、私たちは母屋の裏手へと回った。
そこには、想像をはるかに超える大きさの蔵が建っている。
白壁の土蔵造りで、高さは三階建てのビルに相当するだろうか。間口も十メートル近くあり、この規模の蔵を個人で所有していることに、ただ啞然とするばかりだ。




