第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――移動
約束の日の朝、雨はようやく上がっていた。しかし空はまだ厚い雲に覆われ、今にもまた降り出しそうな気配が漂っている。
私は店の前に停めた車のエンジンをかけ、助手席に座る柿谷信也に声をかけた。
「すまないな、急に呼び出して」
「いいってことよ。どうせ今日は締切明けで暇してたんだ」
柿谷は相変わらずの軽い口調で応え、眼鏡のブリッジを押し上げた。
スーツ姿ではなく、今日は動きやすいジーンズにジャンパーという出で立ちだ。ただし、ショルダーバッグの中には例のオカルトグッズがぎっしり詰まっているに違いない。
「それで、今回の依頼はどんなんだ?」
「上野家っていう旧家の骨董品鑑定だ。江戸時代から貿易で財を成した商家でな、世界中から集めた品が相当数あるらしい」
「なるほど。それで俺を呼んだのか。まあ、確かに一人で全部鑑定するのは骨が折れるわな」
「ああ。それに……」
私は少し間を置き、ハンドルを握る手に力を込めた。
「おそらく、ただの鑑定じゃ済まない」
「……どういう意味だ?」
私は松山からの電話で起きた出来事を手短に説明した。
六人の鑑定士が次々と事故に見舞われたこと、電話回線から負の念が噴き出したこと、そしてパラサイトグリードの気配があったこと。
「なるほどな。つまり、また面倒なことになりそうだと」
「そういうことだ。嫌なら降りても構わないぞ」
「馬鹿言え。ここで降りたらオカルトライターの名が廃るってもんだ」
柿谷は不敵な笑みを浮かべ、ショルダーバッグをポンと叩いた。
「それに今回は準備も万全だ。翔太からもらった対霊用グッズも補充してあるしな」
「頼りにしてるよ」
私はアクセルを踏み込み、車を発進させた。
ナビに従って郊外へと向かうにつれ、風景は徐々に緑を増していった。高層ビルが姿を消し、代わりに広がる田園と、遠くに連なる山々。雨上がりのアスファルトから立ち上る水蒸気が、あたりを霞ませている。
一時間ほど走った頃、ナビが「目的地周辺です」と告げた。
「……でかすぎるだろ、これ」
柿谷が思わず声を漏らしたのも無理はない。
眼前に広がっていたのは、城と見紛うばかりの巨大な屋敷だった。高い塀がどこまでも続き、その向こうには重厚な瓦屋根が見える。門は三つもあり、どれが正門なのか一見しただけでは判断できない。
「上野家……貿易で財を成した商家って聞いてたけど、これはもう大名屋敷の域だな」
「ああ。とりあえず、一番大きい門を目指そう」




