第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――上野家
私は椅子から立ち上がり、カウンター裏のデスクへと移動した。パソコンを立ち上げ、ネットワークサービスで松山から送られてきたメッセージを確認する。
そこには依頼主の名前と住所、連絡先が記されていた。
「上野邸……郊外にある由緒正しい旧家か」
『その名前に聞き覚えはあるか?』
「いや、ないな。少し調べてみるか」
私はパソコンの画面をスクロールしながら、江藤家について調べ始めた。
「上野家……やはり、かなりの旧家だな」
画面に表示される情報は、私の予想を裏切らないものだった。
江戸時代初期から続く商家で、鎖国下においても長崎を通じて海外との貿易を細々と続け、明治以降は正式に貿易商として財を成したという。取り扱う品は多岐にわたり、絹織物や陶磁器、香辛料から美術品まで、世界中の珍品を日本に持ち込んでいた。
「なるほど。今回の鑑定依頼は、上野家の先祖が貿易で世界中を巡った際に買い集めた骨董品類、というわけか」
私は画面をスクロールする手を止め、江藤家の由緒書きに目を通した。
『上野家は代々、美しいもの、珍しいものをこよなく愛し、世界中から数多の美術品や骨董品を蒐集してまいりました。しかし近年、蒐集品の管理が難しくなり、この度、専門家による鑑定と整理をお願いする次第でございます』
依頼主の文面は丁寧で、どこにでもあるような鑑定依頼に見える。だが、あの負の念が電話回線を通じて送り込まれてきたことを考えれば、この依頼の裏には確実に何かが潛んでいる。
「世界中から集めた骨董品の中に、曰く付きのものが混じっている可能性が高いな」
私はそう呟き、依頼主の住所を確認した。都心から車で一時間ほど。山間部に位置する、かなり広大な敷地のようだ。
窓の外では、依然として激しい雨が降り続いている。低く垂れ込めた雲が、街全体を灰色に染め上げていた。
(この雨の中、出かけるのは億劫だな……)
そんなことを考えながら、私は出発の準備を始めた。




