第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――プロローグ
ザアザアと、雨が地面を叩く音が店の中まで響いてくる。今日は朝からずっとこんな調子だ。時折、遠くで雷が鳴り、窓ガラスがかすかに震えた。
こんな日は客足も遠のく。アンティーク紅の店内には、私一人きりだ。カウンターの奥に座り、手にした古い銀製の燭台を磨きながら、ぼんやりと外を眺めていた。
雨の日は嫌いじゃない。むしろ、こうして静かに骨董品の手入れをするには最適の時間だ。燭台の表面に積もった微かな埃を柔らかい布で拭き取り、専用の研磨剤で磨いていく。十九世紀のイギリス製は細かな装飾が美しくて、私は好きだ。
(この燭台、いくつもの夜を照らしてきたんだろうな……)
そんなことを考えながら作業を続けていると、不意に固定電話が鳴り始めた。
リーン、リーン、というレトロな呼び出し音が、雨音に混じって店の中に響き渡る。
「むっ、依頼か?」
私は燭台を机の上に置き、受話器を取った。
「もしもし、アンティーク紅です」
『おお、翔太くんかね? わしだ、松山だよ』
電話の相手は松山という老鑑定士だった。祖父が生きていた頃からの知り合いで、骨董品の鑑定や真贋判定で何かと世話になっている人物だ。
私がアンティーク紅を継いでからも、困った時には相談に乗ってもらっている。
「松山さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
『まあ、なんとかやっておるよ。ところで翔太くん、今日は折り入って頼みがあるんだが……』
松山の声には、普段の快活さがなかった。むしろ、何かに怯えているような、そんな響きがある。
「どうしたんですか?」
『実はな、とある旧家から骨董品の鑑定依頼が来ておってな。じゃが、わしはどうしても行けんのじゃ。代わりに行ってもらえんじゃろうか』
話を聞くと、どうやら奇妙な経緯があるらしい。
元々は別の鑑定士――松山の弟子にあたる若い男が依頼を受ける予定だったそうだ。ところが、依頼の前日になって階段から滑り落ちて足を骨折。全治三ヶ月の重傷で入院することになったという。
そこで松山は、別の知り合いの鑑定士に依頼を振り替えた。するとその鑑定士も、依頼日の二日前に交通事故に遭い、軽傷ながらも入院。結局、依頼には行けなくなった。
『それでな、三人目、四人目と頼んでいったんじゃが……』
松山の声が、さらに沈んだ。
『五人目は急な食中毒で入院。六人目は自宅の階段で転んで打撲。それで七人目として、ついにわしのところに依頼が回ってきたんじゃ』
「六人全員が、ですか……」




