第三話 遊園地に潜む悪意――ドリーム
最悪の可能性が頭をよぎる。『あの方』は、この結果をすでに読んでいたのではないか? ピエロが敗北することを前提に、何か別の計画を進行させていたとしたら?
『考えすぎだよ』
耳元で、カナリアの呆れたような声が聞こえた。妖精とはいえ、休息は必要なのだろう。普段よりも声に芯がない。
『ピエロに力を与えた存在については気になるけれど、今はとにかく休むべきだよ。翔太の体は限界を迎えているんだから』
「わかってる。でも……」
睡魔が急速に襲ってくる。瞼が重い。思考が霧散し始める。
――『ゲームに負けた敗者には……罰を与えないと……』
ピエロの声。怪物と化し、絶望しながら崩れ落ちていく姿がフラッシュバックする。哀れだと思う気持ちもある。だが同情はできない。奴は罪のない人々を弄び、苦しめたのだ。それは決して許されることではない。
――『僕は……ただ……楽しい遊園地を……』
最後の言葉。
ピエロの根源にある歪んだ願い。誰かと一緒に楽しみたかっただけなのかもしれない。だがその手段を誤り、力を得てしまったことで、もはや引き返せなくなっていた。もしかすると、それは私自身にとっても他人事ではないのかもしれない。
(力を求める者は皆、同じ轍を踏むのか……?)
暗い考えに囚われる前に、完全に意識が闇へと沈んでいく。
目を開けると、そこは見知らぬ遊園地だった。
いや、見知らぬというのは正確ではない。つい先ほどまで戦っていた、あのドリームパークだ。
しかし、周囲の景色は廃墟ではなく、色鮮やかで活気に満ちている。メリーゴーランドは輝く馬たちが上下に動き、観覧車は青空に向かってゆっくりと回転していた。家族連れやカップルが笑い声をあげ、子供たちが風船を手に走り回っている。
『これは……夢か』
私は自分の手を見下ろした。
半透明だ。
この場に干渉することはできない。ただ見ることしか許されていないらしい。
観客たちの視線の先には、小さなステージがあった。赤と白のストライプのテントの前で、一人のピエロがパフォーマンスをしている。
『……まさか⁉』
あのピエロだ。
しかし、禍々しい気配は微塵もない。白塗りの顔には本物の笑顔が浮かび、子供たちに向けてジャグリングを披露している。
「すごーい!」
「もう一回! もう一回!」
子供たちの歓声に、ピエロは照れくさそうに頭をかいた。
「ありがとう……ありがとう……君たちが喜んでくれるのが……僕は一番嬉しいんだ……」
その声には、まだ悪意のかけらもない。純粋に、人を楽しませることに喜びを感じている。そんな姿だった。




