第三話 遊園地に潜む悪意――残る問題
私は左腕のブレスレットを見つめた。三色の光は、いつも通り静かに輝いている。
「ディストレイの存在を知っていた。普通のパラサイトグリードは、ディメンダムのことを知らないからな」
私は再びブレスレットへ視線を送るが、ディストレイからは反応はない。この中で唯一知ってそうな者が何も言わないのであれば、私から柿谷へ語る言葉はない。
「そうか……あと一つ、聞いていいか?」
「なんだ」
「もし、その上位存在ってのが本当にヤバい奴だったら……お前、勝てるのか?」
私は少し考え、正直に答えた。
「わからない。だが、負けるつもりもない」
「そうか。なら、俺もできる限り協力するぜ。オカルトライターとしての人脈と知識が、多少は役に立つだろ」
「ありがたい」
「じゃあな、翔太。本当にありがとう」
「ああ、お前もお疲れさま」
悪手を交わし、私たちは別れた。
柿谷の車が見えなくなったところで、私は大きくため息をつく。体の節々が悲鳴を上げていた。
「さて、帰るか」
アンティーク紅の真後ろにある、築三十年の小さな一軒家。それが、私――紅翔太の自宅だ。
玄関の鍵を開け、靴を脱ぐのももどかしく廊下を進む。体中が悲鳴を上げていた。左腕の切り傷はすでに止血されているが、コートの下のシャツは血で固まっている。ピエロとの戦いで負った傷だけではない。ディストレイを長時間召喚していたことによる精神的な疲労が、何よりも重くのしかかっていた。
「ただいま……」
誰もいないとわかっていても、つい口から漏れる。返事がない静けさが、かえって心地よかった。
寝室のドアを開け、私はそのままベッドに倒れ込んだ。スプリングがギシリと軋み、長年の使用でくぼんだマットレスが、疲れ切った体を優しく受け止める。
「もう動けん……」
天井を見上げながら、ぼんやりと思う。ピエロは確かに倒した。だが、奴が最期に叫んだ『あの方』という言葉が、頭から離れない。
――『敗者は滅びるか、さもなくば意味を成せ』
あの冷徹な声。それは紛れもなく、ピエロが言うところの『あの方』のものだろう。人間のものではない。大地を這うように低い、感情という概念が一切排除された声だった。
「何者なんだ……? お前は……」
独り言が自然と出てくる。答えなどないことはわかっている。だが、問わずにはいられなかった。
ピエロは単なる捨て駒にすぎなかったのか? それとも、何か重要な手順の一部として利用されただけなのか?
(あるいは……)




