第三話 遊園地に潜む悪意――安堵
「なに言ってんだよ、翔太。お前がいなきゃ、俺たち全員あのピエロにやられてたぜ。礼を言うのはこっちのほうだ」
柿谷が照れくさそうに笑う。
「それに……」と森山が顔を上げた。
「翔太さんがいなければ、私は陽子を見つけることさえできなかった。刑事としても、姉としても、感謝してもしきれません」
「それが私の仕事ですから。されと、元気になってはくれたけど、三人を病院に連れて行って精密検査を受けてもらわないといけないけど……おっ。いいタイミングだ」
私の視線の先には、横目警部が数人の部下と救急隊員を連れて走って来る。
「お、お疲れ様です、く、紅さん。ああ、よ、よかった。さ、三人とも、こちらに、いたん、で、ですね」
肩で息をしながら、横目警部は消えた三人の被害者の生存を確認して、安堵している。
「ええ。一応、そちらで何があったのか、訊いてもいいですか?」
私が尋ねると、横目警部はありのまま起こったことを語ってくれた。
私との電話を終えた後、すぐに三人をシェルターで保護するために、それぞれ移動していたところ、一瞬目を離した隙に三人が同時に目の前から消えたという。
こんなことができるのはパラサイトグリードだけ、と直感した横目警部は奴を逃さないために、『サテライトビーム』の申請をした後、この場所へ赴いたとのことだ。
「それはお疲れさまでした」
「いやいや、君たちに比べれば我々など……」
「横目警部」
「おお、森山君。無事に妹さんを助けれたようだね」
「はい」
陽子を含む三人の生存者はすぐに担架に乗せられる。バイタルサインは安定し、顔色も悪くないものの、疲労と衰弱が著しいとのこと。
数日で退院できるだろう、と救急隊員は柔らかな笑みを浮かべる。
「私も付き添います」
森山は妹の乗った救急車に同乗することを選んだ。ドアが閉まる直前、彼女は私の方を振り返り、深々と頭を下げた。刑事としてではなく、一人の姉としての感謝が、その仕草のすべてに込められていた。
「陽子が退院したら、改めてお礼に伺います」
「気にしないでください。それよりも、妹さんをしっかり支えてあげてください」
「……はい」
救急車がサイレンを鳴らして走り去る。その後ろ姿が見えなくなるまで、私はその場に立ち尽くしていた。
「やれやれ、今回は本当に疲れたな」
柿谷が大きく伸びをする。眼鏡の奥の目は充血し、無精髭が伸び始めている。一晩中走り回って、なおかつ命の危機にも晒されたのだ。無理もない。




