第三話 遊園地に潜む悪意――後処理
「僕は……ただ……楽しい遊園地を……」
爆発。浄化の光が劇場を満たし、すべての悪意が消滅していく。後に残ったのは、崩れかけた劇場と、朝日を受けて輝くディストレイの巨体だけだった。
浄化の光が収束し、劇場に静寂が戻った。
「お疲れ、翔太」
柿谷が私の肩を叩いた。
「ああ。ありがとう」
コクピットのスクリーンには、浄化の光に包まれて消えゆくピエロの残骸が映し出されていた。黒い霧は完全に晴れ、犠牲者たちの魂もすべて解放されたようだ。劇場の天井からは、かすかに朝日が差し込み始めている。
私は操縦桿から手を離し、深く息を吐いてから、ディストレイを解除する。
「疲れた」
体中が鉛のように重い。
今回の戦闘は、いつも以上に体力と精神力を使った。
自分の体を見れば、服は血や土で汚れ、トランプやナイフで引き裂かれてボロボロだった。
『よく頑張ったな、主よ』
ディストレイの声が、労わるように響く。
「ありがとう」
『うむ。休息を取ってほしい気持ちはやまやまだが、だが、生存者たちの状態を確認するのが先だな』
『頑張れ!』
カナリアの応援を聞いて、私は背後を振り向いて柿谷たちの元へ向かう。
森山は、妹の陽子を抱きしめたまま動かなかった。陽子の目はまだ虚ろだが、その頬には涙が伝っている。感情が戻り始めている証拠だ。
「陽子……陽子……!」
森山が妹の名前を何度も呼んでいる。私は彼女の隣に座り、右手から『浄化の炎』を出して彼女の妹へ炎を移す。
癒しの炎は妹を蝕む負の力を浄化、ついでに炎は妹を伝って抱きかかえている森山にまで移り、彼女が抱いている不安や恐怖を取り除いていった。
「あ、あれ? お、お姉ちゃん? 私?」
「よ、陽子」
「い、痛いよ、お姉ちゃん」
森山の目からも涙が溢れていた。刑事としての仮面が完全に外れ、ただの姉として、妹の生還を喜んでいる。
「次だな」
私は重い腰を上げ、今度は二人の生存者へ向かい、同じように『浄化の炎』で彼らの意識を呼び覚ます。
「俺は……生きてるのか……」
自殺未遂を起こした男性は、自分の手を見つめながら呟く。
「ここは……どこですか……」
大学生の彼は困惑した表情を浮かべている。
「よかった……本当によかった……」
柿谷が眼鏡を外し、目頭を押さえた。オカルトライターとして数々の怪奇現象を見てきた彼も、今回ばかりは安堵の涙を隠せないようだ。
「柿谷、森山さん。二人のおかげで、彼らを助けられた。ありがとう」




