第三話 遊園地に潜む悪意――決着
その爪先には、触れたものを腐食させる黒い靄が渦巻いている。
「防御だ」
『了解』
ディストレイの左腕に装備された逆五角形の盾アトランリアが展開し、浄化の障壁が前面に広がる。ピエロの鉤爪が障壁にぶつかり、火花のような霊気の衝突が起こる。
「よくも……よくも僕の邪魔を……!」
ピエロの口から、かすかに元の人格の恨み言が漏れた。まだ完全に自我が消えたわけではないのか、それとも、『受肉』させた上位存在がピエロの口を借りて話しているのか。
「お前はもう、自分の意思で動いていない。ゲームは終わりだ。大人しく浄化されろ」
「イヤダ……イヤダイヤダイヤダ!!」
ピエロが絶叫し、全身から無数のトランプを射出する。トランプの一枚一枚に、人間の苦悶の表情が浮かんでいた。あれはおそらく、これまでピエロが取り込んできた犠牲者たちの魂の断片だ。
「見過ごせないな」
私は操縦桿を握り直す。
「アトランリア、砲撃形態」
『了解。アトランリア、変形』
左腕の盾が左右に展開し、中から黄色の宝玉があらわになる。
「さぁ、これを耐えられるかな? 『裁きの雷光』……撃てぇ!」
私の号令とともに、『裁きの雷光』が黄色の宝玉から極太の光線が放たれる。全てを消滅させる光は、トランプの群れを一掃し、巨大なピエロの体ごと呑み込んでいく。
「ググ……ギギ…アアアアアア!」
光が消えた後、ピエロは全身黒焦げだったがまだ存在していた。焦げた場所からはどす黒い霧が溢れて、負傷した個所へ巻き付いている。
しかし、それとは別にピエロの口から無数の小さな光の粒が、次々と天へ昇っていく幻想的な光景が目視できた。
「これは一体……」
「ア……リガ……ト…」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
犠牲者たちの魂が解放され、救われた魂たちの、最期の感謝。
それが消えるまで、ほんの数秒。
「その感謝……確かに受け取った」
オリルフィアの纏う浄化の炎を最大出力にした直後、ディストレイは跳躍する。
「ア……ッア……アアア」
まだ再生が追い付いておらず、動けないながらもピエロはゆっくりとした動きで両手を跳躍しているディストレイへ向ける。
両手を広げているその姿は、まるでこの一撃を受けて開放されたと願うように見えた。
「……一浄両断」
オリルフィアが真っ直ぐ、ピエロの体を両断する。切り口から『浄化の炎』が入り込み、内部から悪意の根源を浄化していく。
「あ……あの方……なぜ……」
最後の瞬間、ピエロの声がかすかに聞こえた。それは、自分に力を与えた上位存在に対する、裏切られた者特有の悲嘆と怨嗟の声だった。




