プロローグ 発見
階段を降りるにつれ、温度が下がっていく。
物理的な寒さではない。魂の芯を凍らせるような、恐怖の冷気だ。
私の左腕のブレスレットが微かに震える。
この先に得体のしれない何かがいるのだろう。
地下室の扉は、すでに壊されていた。蝶番がねじ切られ、扉は通路の壁にめり込んでいる。これだけの力を出せるのは、霊を乗っ取った「半霊体」以上のパラサイトグリードだ。
中へ踏み入ると、そこはかつて遺体安置所だった場所らしい。ステンレス製の台が並び、その上にはカビと苔が生い茂っている。だが、私の目は部屋の中央に釘付けになった。
「……三人とも、いた」
若者たちがいた。ただし、立っているわけではない。彼らは部屋の中央に描かれた奇妙な円陣の中で、まるで石像のように硬直していた。目は見開かれ、口は半開き、恐怖で表情が凝固している。
「おい、聞こえるか」
一人の肩に手を触れようとした瞬間、彼らの口から一斉に声が漏れた。
「……見…タ……」
「……コ…ソ……」
「……オ…ウ……」
三人の声が重なり、不協和音となって響く。その声は彼らのものではない。彼らの体を通じて、何かが語りかけているのだ。
「こんなことができるのは、パラサイトグリードだけだな」
私は即座に判断した。彼らはまだ生きている。しかし、彼らの負の感情を餌にする何かが、彼らを繋ぎ止めている。
そして、その何かが近くにいる。
「ヨク……キタ……」
声は背後から聞こえた。
振り返ると、そこにいたのは一人の少女だった。白衣ではなく、患者服を着ている。彼女の体は半透明で、ところどころが黒く濁っていた。
その姿は先ほどの老人よりもはるかに歪んでいるが、体からは何も出ていないところを見ると、すでに宿主がため込んだ負の念は全て吸収しているようだ。
「アナタノ……ソノ……アツイ……オモイ……モラウ……」
少女が手を伸ばす。
その指先から黒い霧が伸び、私の左腕のブレスレットに絡みつこうとする。
「むっ⁉」
黒い霧が私の左腕のブレスレットに絡みつこうと迫る。飢えた蛇のように蠢くその霧は、私の抱く恐怖や不安といった負の感情を嗅ぎつけ、一気に吸い尽くそうとする意志を感じた。
「ありゃりゃ、それは悪手だろう」
黒い霧がブレスレットに接触した瞬間、真っ赤に染まったそれから炎が激しく燃え上がった。私のよりも遥かに強大な威力の炎は、あっという間に霧を飲み込んでいく。
霧から苦悶の悲鳴が届き一瞬で収縮し、燃え尽きていく。
「あーあ。だから言ったのに」
黒い霧を燃やし尽くしたことを確認したブレスレットは、満足したように急激に色が落ちて元通りになる。さすがは、『浄化の炎』のオリジナルだ。




