第三話 遊園地に潜む悪意――敗者の末路
ピエロの声から、初めて余裕が消えた。
「素晴らしい……本当に素晴らしいよ……君たち……たかが人間と、ちょっと力を持っただけの異能者が……僕のゲームをクリアするなんて……」
ピエロが拍手を始める。パチ、パチ、と壊れたおもちゃのような拍手が劇場に響いた。
「賞賛に値する……本当に……」
その瞬間だった。
ピエロの体から、まとわりつく負の念が一気に溢れ出した。黒い霧が渦を巻き、劇場全体を包み込む。あまりの圧力に、床がひび割れ、壁が震えた。
「なんだ……?」
私は身構える。だが、様子がおかしい。この力の放出は、ピエロ自身の意思ではない。
「あ……あれ……? なに……これ……」
ピエロが困惑した声を上げる。
自分の体から溢れ出す力を、彼自身が制御できていないのだ。
「ち、違う……僕はまだ……ゲームはまだ終わって……」
その時、ピエロの耳にだけ聞こえる声があった。
――『ゲームに負けた敗者には、罰を与えないとね』
その声は、人間のものではなかった。地の底から響くような、重く、冷たい、無機質な声。
「あ……あの方……! 待って……まだです……僕はまだ負けてません……! もう一度チャンスを……!」
ピエロが虚空に向かって叫ぶ。しかし、声は容赦なく続ける。
――『敗者は滅びるか、さもなくば意味を成せ』
「いやだ……いやだあああ!!」
ピエロの絶叫が劇場に響き渡る。その体が、内側から膨れ上がっていく。負の念が実体化し、ピエロの肉体を侵食し、再構築していく。
「た、助けて……あの方……お願いです……もう一度だけ……!」
しかし、声はすでに聞こえていなかった。
ピエロの体が、異形へと変貌していく。だぶだぶの衣装は破れ、その下から黒い筋肉の塊が露出する。両腕は異様に長く伸び、指は鋭い鉤爪へと変化した。背中からは無数の触手が生え、それぞれの先端に口がついている。そして顔――ピエロの顔は上下に裂け、内部から無数の眼球が覗いていた。
「強制的な『受肉』か……!」
私は即座に判断した。パラサイトグリードが、上位存在の力によって無理やり進化させられている。もはやピエロの自我はなく、ただ破壊を撒き散らすだけの怪物だ。
「グ……ギ…アアアアアア!!」
怪物と化したピエロが咆哮する。その声だけで、空気が震え、床が砕けた。
「翔太!」
柿谷たちが吹き飛ばされそうになる。
「ディストレイ!!」
私は叫んだ。
私を中心に魔方陣が現れ、巨大な炎の柱が立ち上り、天井を吹き飛ばして、赤い結界が広がる。
次は雷雲が現れ、地上――ピエローーに向かって降り注ぐ。




