第三話 遊園地に潜む悪意――園長
「あと少し……」
森山は歯を食いしばり、前を向いた。
「あと少しで劇場です……!」
森山は歯を食いしばり、陽子を抱えながら走った。他の二人の生存者も、虚ろな目をしながらも必死に足を動かしている。柿谷が最後尾でマッチを擦り、追いすがる子供の霊たちを牽制していた。
しかし、劇場まであと百メートルというところで、前方の道が突然、黒い霧に包まれた。
「なんだ……?」
柿谷が立ち止まる。
霧の中から現れたのは、一体の巨大な影だった。形は人間のようだが、その身長は優に三メートルを超えている。全身が黒い靄で覆われ、頭部にあたる部分には無数の目がぎょろぎょろと蠢いていた。
「……園長……」
陽子がかすれた声で呟いた。
「園長? こいつがドリームパークの園長だったってのか?」
巨大な影――元園長の霊は、無数の目を一斉に森山たちに向けた。その視線だけで、肌が粟立ち、足が竦む。
「……侵入者……私の園を……荒らすな……」
園長の霊の声は、地の底から響くような重低音だった。空気が震え、地面が揺れる。
「マズい……こいつ、さっきまでの雑魚とは格が違う!」
柿谷がマッチを三本同時に擦った。真紅の炎が大きく燃え上がる。
「ギ……」
園長の霊がわずかに後退する。
しかし、子供の霊たちのように逃げ出したりはしない。浄化の炎を警戒はしているが、怯んではいないのだ。
「効きが悪い……!」
柿谷の額に冷や汗が流れる。マッチの炎は数十秒で消える。この園長とやらを撃退するには、あまりにも力不足だ。
「柿谷さん、下がってください!」
森山が陽子を地面に座らせ、ジャケットの内側に手を入れた。ホルスターから引き抜いたのは、彼女の愛用する拳銃――ではなく、予備の弾倉だった。
「それは……確か翔太が力を込めた銃弾?」
「そうです。『いざという時のために』って」
森山が弾倉を拳銃に装填する。中には、弾頭がそれぞれ赤、黄、青に輝く特殊な弾丸が五発ずつの計十五発。表面には細かい魔方陣が刻まれている。
「これを使用してあの化け物を倒します」
「それなら何とか対抗できますね。お願いします、森山さん」
その時、園長の霊が咆哮を上げた。
無数の目が一斉に赤く輝き、影の体から無数の触手が伸びてくる。
「来ます!」
柿谷が叫ぶ。
森山は両手で拳銃を構え、深呼吸した。
射撃訓練は何度も受けている。動く標的にも当てられる。
だが、相手は人間じゃない。銃弾が効く保証はどこにもない。
「森山さん、狙いは頭部――目の集合体です! あそこが核のはずです!」




