第三話 遊園地に潜む悪意――救出
回転する台座に飛び乗り、陽子の乗る馬を目指す。しかし、近づくにつれて異様な光景が明らかになった。三人は確かに馬にまたがっているが、その体は半透明に透け始めている。
「陽子! 陽子、わかる⁉」
森山が叫ぶ。陽子はゆっくりと顔を上げた。虚ろだった目に、かすかに光が宿る。
「……おねえ……ちゃん……?」
「そうよ! 迎えに来たの! さあ、こっちに……」
森山が手を伸ばした瞬間、陽子の体がさらに透けていった。
「ダメ……おねえちゃん……私…もう……」
「何言ってるの! しっかりして!」
森山が必死に妹の手を掴もうとするが、指は空を切るばかりだ。
「柿谷さん、どうすれば⁉」
「ちょっと待ってください。ええと、こいつらは生きた人間なのに、霊に引っ張られてる! このままだと、本当に霊になっちまう! それならば……この原因の元をどうにかすれば!」
柿谷がコントロールパネルに到達し、スイッチを入れ替えた。
回転速度が急速に落ちていき、やがてメリーゴーランドは完全に停止した。
子供の霊たちが悔しげな唸り声を上げ、影の集団の中へと消えていく。
「よかった……!」
森山は陽子の乗る馬の上で膝をつき、妹の顔を覗き込んだ。陽子の目はまだ虚ろだが、さっきよりは明らかに意識がはっきりしている。
「ふう。森山さん! こっちの二人も大丈夫です!」
柿谷の歓喜の声が響く。
他の二人も、それぞれ乗っていた馬から滑り落ちるようにして地上に降りてくる。肉体へのつながりはまだ完全ではないが、少なくとも霊界に連れ去られる寸前での救出には成功したようだ。
「森山さん、まずは安全な場所へ移しましょう。翔太のもとに戻るのがベストですが……」
「その方がいいでしょう。私たちでは、この非現実的な力に抗うすべはないので。ただ、紅さんの負担は増えてしまうのが心苦しいですが……」
陽子の腕を肩に回し、立ち上がらせる。
「万が一、文句を言われたら、何かおいしいものでも奢ってやりましょう」
柿谷は冗談ぽく口にすると、森山にも笑顔が戻る。
「ふふふ、そうですね」
その瞬間、二人の背後に新たな黒い影が出現する。
「まだいるのかよ!」
柿谷はすかさず新しいマッチを取り出し、立ち向かおうとした。そのとき、劇場の方向から巨大な爆発音が響き渡り、空に浄化の炎と雷光が交錯する様子が見えた。
「紅さん……」
「あいつなら大丈夫です。我々は我々で、やれることをやりましょう」
「はい!」
森山は陽子を抱え、他の二人の生存者を導きながら、着実に劇場へと戻り始めた。
その途中にも幾多の霊が現れるが、柿谷の『浄化の炎』入りマッチが彼らを撃退していく。その炎は小さくとも、悪意を滅ぼすのに十分な威力があった。




