第三話 遊園地に潜む悪意――一方の二人
森山と柿谷は、崩れかけた園内を必死に駆けていた。
劇場を飛び出してから、すでに三十分は経過している。
夜明けまではあと四時間ほどか。時間はあるようで、ない。
「くそっ、どこにいるんだ……!」
柿谷がタブレットを片手に悪態をつく。
画面にはドリームパークの古い園内マップが表示されていた。
ネットの廃墟マニアが復元したデータだ。
「柿谷さん、そっちは?」
「ダメです。メリーゴーランド周辺には気配すらありません。森山さんは?」
森山はしゃがみ込み、地面に落ちた何かを拾い上げた。小さな布の切れ端だ。パジャマの裾らしい。
「こっちです。陽子が通った跡です。この布、陽子のパジャマのものです」
「さすが刑事。妹さんのことは、やっぱりよくわかってるんですね」
「幼い頃から、ずっと私が面倒を見てきましたから。両親が忙しくて……」
森山は布切れを握りしめ、立ち上がった。その目には、刑事としての冷静さと、姉としての必死さが同居している。
布切れが落ちていた方向へ進むと、前方に古びたメリーゴーランドが見えてきた。屋根は半分崩れ落ち、馬の彫像はどれも首や脚が欠けている。しかし、異様なのはそこではなかった。
メリーゴーランドが、ゆっくりと回転しているのだ。
「動いてる……? 電気なんて通ってないはずだろ……」
柿谷がごくりと唾を飲み込む。
回転するメリーゴーランドの上に、人影が見えた。三つ。虚ろな目で前方を見つめ、壊れた馬にまたがっている。
「陽子!」
森山が駆け出そうとした瞬間、メリーゴーランドの周囲に無数の黒い影が現れた。
子供の霊だ。年齢は五歳から十歳くらいだろうか。
みな一様に青白い顔で、口を大きく開けて笑っている。
「あそぼ……あそぼ……」
「おねえちゃんも……いっしょにあそぼ……」
子供の霊たちが、一斉に森山たちに迫る。
「くっ……!」
柿谷がバッグから小さな箱を取り出した。中には、赤い頭のマッチがぎっしりと詰まっている。
「翔太から預かった『浄化の炎』入りのマッチだ。一本一本に、あいつの炎の力が込められてる。効果は数十秒しか持たないが……これで道を開く!」
柿谷がマッチを擦った。シュッという音とともに、真紅の炎が燃え上がる。普通のマッチとは比べ物にならないほど、力強く、美しい炎だ。
「ギャアアアッ!!」
子供の霊たちが悲鳴を上げて後退する。『浄化の炎』を恐れ、道を開けた。
「今だ、行きましょう!」
森山と柿谷は、メリーゴーランドに向かって全力で走った。




