第三話 遊園地に潜む悪意――上位の存在
私は眉をひそめた。
確かに、ピエロは破裂した。浄化の雷弾は確実に奴の核を捉え、消滅させたはずだ。
しかし――何かがおかしい。手応えが、あまりにも軽すぎる。
背後で、劇場の扉を開きかけた森山と柿谷が、足を止めて振り返った。
「終わったのか、翔太⁉」
「いや……待て……」
私は二人を手で制した。
違和感の正体はすぐにわかった。
破裂したピエロの残骸が、まったく消えていないのだ。浄化の力を受けた悪意は、本来なら完全に消滅するはず。それなのに、ステージに散らばった黒い霧が、ゆっくりと蠢き始めている。
その時だった。
天井から、まばゆいスポットライトが、ステージ中央に落ちた。
「……え?」
森山の困惑した声が響く。
光の中に立っていたのは、さっきと同じピエロだった。
しかし、さっきとは明らかに何かが違う。衣装は新品のように真っ白で、白塗りの顔にも傷一つない。口元には相変わらずの不気味な笑み。そして、その体からは、明らかに格の違う禍々しい力が溢れ出していた。
「……なんだ、その力は」
私の問いに、ピエロは首をかしげ、くすくすと笑った。
「これはね……ある方に頂いたんだ……」
「ある方だと?」
「うん……君のことも……その方に聞いたよ……紅翔太……ディメンダムの契約者……妖精カナリアの主人……そして……たくさんの僕の仲間を狩ってきた……敵…」
ピエロの声が、多重に響く。まるで、複数の人間が同時に喋っているかのようだ。
『ある方……もしや⁉』
「何か心当たりがあるのか?」
私がディストレイに尋ねると、彼は唸りながら答える。
『おそらく、奴らの親玉であるパラサイトグリードの側近たち。つまりピエロの上位存在』
「おいおい、そんな話、初めて聞いたぞ」
『すまない。我も記憶があやふやで――』
いつも自信に溢れているディストレイが、動揺している姿など戦闘以外では久しぶりだ。
「分かった。何か思い出したら情報を頼む」
私は小さく息を吐いた。
どうやら、パラサイトグリードの側近たちがいるらしい。ピエロはその存在から力を与えられ、さらに私の情報も事前に仕入れていたということか。
「面倒なことになったな……」
『翔太、一旦ディストレイを戻したほうがいいよ。魔方陣を維持するだけでも、翔太の体に負担がかかるんだから』
カナリアの警告に、私は頷いた。
「わかってる」
私は右手を振り、背後に展開していた魔方陣を閉じた。
ディストレイの巨体が光の粒子となって消え、劇場は再びピエロの支配下に戻る。
だが、それでいい。
今はまだ、相棒の全力を引き出す時じゃない。




