第三話 遊園地に潜む悪意――ピエロ
「で、出た……!」
柿谷がカメラを構えるが、シャッターが下りない。何度押しても、機械が完全に停止している。
「どうやら、いつの間にか別の空間へ誘われていたようだな」
私は森山を背後に庇い、鏡に向かって一歩踏み出した。
「出てこい。そこにいるのは分かっている」
左手を銃の形にして、人差し指と中指の銃口を鏡に向ける。
鏡の中の森山が、くすくすと笑う。
そして、彼女の背後に、もう一人の人影が浮かび上がった。
ピエロだった。
白塗りの顔に、真っ赤な口紅で描かれた不自然な笑み。だぶだぶの衣装はところどころ破れ、右手には壊れた風船を握っている。そして、左手には――人の腕らしきものを。
「……いっしょに……あそぼ……」
ピエロの声は、割れたガラスのように耳障りだった。
私はいつでも動けるよう腰を低くしたその瞬間、カナリアの切羽詰まった叫びが頭に木霊する。
『翔太! このピエロ、ただの霊じゃない! 空間ごと歪めてる!』
「何だって?」
ピエロが、ゆっくりと右手を掲げた。白い手袋に包まれた指が、パチン、と鳴る。
次の瞬間、世界が反転した。
廃墟だったミラーハウスの床が、壁が、天井が、見る見るうちに色づいていく。ひび割れた鏡は消え失せ、代わりに赤と金の豪華な幕が現れた。足元のコンクリートは赤い絨毯に変わり、頭上にはシャンデリアが輝く。
そして何より、廃墟にはありえなかった観客席が、私たちを取り囲むように広がっていた。
「な、なんだこりゃ……!」
柿谷が呆然と呟く。
いつの間にか、私たち三人は劇場の最前列に座らされている。立ち上がろうにも、体が椅子に縫い付けられたように動かない。
おそらく、ピエロの力といったところか。
「これは……サーカスの劇場……?」
森山の声が震える。彼女の手が、無意識に私の腕を掴んでいた。
ステージには、ピエロが一人立っている。
先ほど鏡の中に見た姿そのままに、白塗りの顔、裂けたような赤い笑み、だぶだぶの衣装。
しかし、さっきよりもはっきりと、そして恐ろしいほど現実感を伴って、彼はそこにいた。
ピエロが深々とお辞儀をする。まるで、これから始まる演目の主役のように。
「ようこそ……ドリームパークへ……」
その声は、もはや鏡越しの不明瞭なものではない。すぐ目の前で、はっきりと聞こえる。
「今夜の演目は……『命がけのかくれんぼ』……」
ピエロが両手を叩いた。パン、パン、と軽やかな音が劇場に響く。
ステージの床が左右に割れ、せり上がってきたのは三つの長方形の箱だった。
人の背丈ほどもある、黒塗りの木箱。まるでマジックショーの大道具のように、何の前触れもなく現れた。




