第三話 遊園地に潜む悪意――ミラーハウス
ドリームパークの中は、想像以上の荒廃ぶりだった。
メリーゴーランドは支柱が傾き、動物の彫像はどれも首や四肢が欠けている。コーヒーカップは床に固定されたまま苔むし、ベンチは朽ちて原型を留めていない。唯一の光源は、柿谷が持ってきたLEDライトと私のフラッシュライトだけだ。その光が照らす範囲以外は全て漆黒の闇であり、そこに潜む何かを察知するのが困難なほどだった。
「思ったより、廃墟としては普通だな」
柿谷が少し拍子抜けしたような声を出す。
ライトの光が廃墟となったレストランを舐めるように照らす。大きな蜘蛛の巣が張り巡らされ、窓ガラスは一枚残らず割れていた。
「まずはミラーハウスから行ってみましょう。陽子の友人が『鏡の中の自分じゃない人が手招きしていた』って言ってたので」
森山が提案する。
彼女はタブレットを取り出し、妹の友人に聞き取った調査報告書を見ていた。
「ミラーハウスか……」
柿谷が眉をひそめる。
「あそこは一番ヤバイって噂だぜ。行った奴がみんな『知らない自分』に怯えて帰ってくるって」
「『知らない自分』ね」
私は先導するように足を進めた。
園内のマップはどこにも残っていないが、朽ちた木製の看板が矢印と文字を辛うじて示している。
「→ミラーハウス」
指し示す先は、崩れかけた温室のような建造物だった。入口のガラスはすべて割られており、暗い室内がぽっかりと口を開けている。
辺りには異様な静けさが満ちていた。夜風すらも吹かない。
「むっ⁉ これは」
足を踏み入れた私は思わず声を出してしまう。
「空気が……重いな」
柿谷が襟元を緩める。
確かに、息苦しいほどの圧迫感があった。
「森山さん、必ず私の背後にいてください。柿谷も、無茶はするなよ」
ミラーハウスの内部は、外観以上に異様だった。
通路の両側に据えられた鏡は、どれもひび割れ、一部は粉々に砕けている。にもかかわらず、破片の一枚一枚が、ぼんやりと光を反射している。私たちのライトの光だけのはずなのに、まるで鏡そのものが内部から発光しているかのようだった。
「この鏡……」
森山が一枚の比較的大きな鏡の前に立った。ひび割れた表面に、彼女の顔が歪んで映っている。
「普通の鏡ですよね?」
「普通なら……」
私は鏡の表面に手をかざした。ブレスレットが光始める。
瞬間。
鏡の中の森山の顔が、ゆっくりと笑った。
「……っ!!」
森山が飛び退く。鏡の中の彼女は、現実の彼女とは別の動きをしている。
口角が耳元まで裂けるように吊り上がり、目が見開かれ、血走った瞳孔が私をじっと見つめていた。




