第三話 遊園地に潜む悪意――到着
「ピエロの霊だ」
「ピエロ?」
「ああ。園内をうろつくピエロの霊。笑いながら近づいてきて、『一緒に遊ぼう』って話しかけてくるらしい。それで実際に返事をすると、取り憑かれる。取り憑かれた人間は、一週間以内に必ず死ぬって噂だ」
車内に重い沈黙が落ちた。窓の外では、夕闇が迫り、山道の両側に鬱蒼とした杉林が続いている。街灯の数が減り、世界から色彩が失われていくような錯覚を覚えた。
「そのピエロの噂……信憑性は?」
ピエロは見た目だけでかなり異質なキャラだと言える。
真っ白な顔に真っ赤な唇、目元が黒く塗られていて常に笑う姿はとても不気味で、ホラー映画なんかでは、悪役の怪人として有名であろう。
一時期、アメリカとかでは映画の影響で夜中、道路や橋の真ん中でピエロの格好をした不審者が、武器を振りかざして近づいてくる車を襲うような事件もあった。
想像するだけで恐ろしいものだ。
森山の声がかすかに震えているのも無理ないだろう。
「正直、半信半疑だった。ネットの都市伝説だと思ってたんだ。でも、妹さんの話を聞いて、考えが変わった。六人中三人が死亡、三人が精神に異常をきたす。しかも全員が同時期に。これは、ただの噂じゃ片付けられない」
柿谷が眼鏡のブリッジを押し上げる。彼の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。普段は飄々としている男だが、今回ばかりは緊張しているのが明らかだった。
「カーナビはこの周辺をさし――ああ、ここね」
森山がハザードランプを焚いて車を停めた。前方には、朽ち果てたアーチ型の門扉。錆びついた鉄製の看板には、「Welcome to Dream Park!」と描かれているが、文字のほとんどは剥がれ落ちている。門の脇には無造作にチェーンと南京錠がかかっていたが、どちらも切れたり捻じ曲げられたりしており、誰かが意図的に外したことが見て取れた。
「肝試し連中だな」
私は呟いた。門の隙間から見える園内は薄暗く、崩れかけた建物や傾いた遊具が不気味なシルエットを作っている。遠くでカラスの鳴き声が聞こえ、湿った土と枯葉の匂いが鼻をついた。
「二人とも、準備はいい?」
私は二人に問う。
柿谷は喉をごくりと鳴らし、頷いた。
森山はジャケットの内ポケットを軽く押さえ、中にある拳銃の存在を確かめているようだった。
「では、行こう!」
私は門の隙間をくぐり抜けた。砂利道を踏みしめる足音が、やけに大きく響く。西の空にはまだ僅かに茜色が残っているものの、頭上には早くも星が瞬き始めていた。




