第三話 遊園地に潜む悪意――調査開始
「陽子は、一ヶ月間、自分の部屋から一歩も出ていません。カーテンも閉め切ったまま。食事はドアの前に置いておくと、誰もいない間に少しだけ手をつける。話しかけても、返事はありません。ただ、夜中になると部屋の中から『ごめんなさい、ごめんなさい』って繰り返す声だけが聞こえるんです」
彼女の手の中で、カップがカタカタと震えていた。
「私は刑事です。人並み以上に、修羅場も見てきました。でも、今回はどうしていいかわからない。妹に何が起きたのか、どうすれば助けられるのか、さっぱり……。そんな時に、心霊対策課へ行ったんです。そしたら横目警部に対応していただきまして、話が終わると彼からこの場所を紹介されまして」
「それで、私のところに」
「はい。『話を聞く限り、今回の事例では我々の力では対処できない。ただ、彼ならば解決できるだろう』と横目警部はおっしゃっていました」
「だから、どうか……」
森山が深々と頭を下げた。
「妹を、助けてください」
私は窓の外を見た。
六月の陽射しが、街路樹の緑を鮮やかに照らしている。
こんな平和な昼下がりに、なんて陰惨な話だろう。
「わかりました」
森山が顔を上げる。その目に、かすかに光が宿った。
「ただ、まずは妹さんたち生存者の保護が必要です。パラサイトグリードの仕業だとすると、霊障は時間をかけて進行します。妹さんだけでなく、入院中の方や療養中の方も危険です」
「パラサイト……?」
「ああ、気にしないでください。こっちの専門用語です」
私は立ち上がり、カウンターの奥からスマホを取り出した。
「まずは横目警部に連絡します。霊障を受けた三人の保護を依頼しないと。心霊対策課には、そういう時のためのシェルターがあるんです」
「シェルター……警視庁にそんなものが?」
「あるんですよ、これが。まあ、表向きは『精神科の特別保護室』ってことになってますが。中身はお札と結界だらけの、ちょっとした要塞です」
私は電話をかけながら、柿谷に目配せした。
「柿谷、お前は廃遊園地の情報をまとめておけ。心霊スポットとして有名な場所なら、オカルト的な視点からわかることがあるはずだ」
「ああ、任せとけ。ドリームパークについては、俺も一度ちゃんと調べてみたいと思ってたんだ。資料は頭の中に入ってる」
柿谷が眼鏡のブリッジを押し上げ、不敵な笑みを浮かべた。
電話の繋がる音が聞こえ、受話器の向こうで横目警部の疲れた声が届く。




