プロローグ 特性
「うーん、こいつはパラサイトグリードではなく念動を操るただの霊だな。」
白衣を纏った老人から感じるこの圧倒的な負の気は、霊に寄生する化け物パラサイトグリードの条件に当てはまっている。だが、割れた窓から降り注ぐ月光に照らされたその体は完全に透けている。
私の感覚だと、確実にパラサイトグリードだと断定できるのは、実体を持つまで成長した『半霊体』の場合であり、その前段階である『霊体』の場合は普通の霊と見分けがつかない。なぜなら、『霊体』の段階では、パラサイトグリードは何の力も出せず宿主の負の感情を食べることしか行動ができないからである。
つまり、目の前の霊みたいに負の気をまき散らす程、その内に負の念をため込んでいるのならば、パラサイトグリードに寄生はされていない可能性は高い。
とは言っても、目の前の霊が危険な霊であることには間違いない。
早く除霊をしなければ、他の無害な霊にも悪影響を及ぼしかねない。
例えば、屋上で永遠に落ち続けている女性の霊とか――。
「見ツケタ……ココダ……オマエノ、ソノ、フカイ、オモイ……」
老人の顔が歪む。口が耳のあたりまで裂け、瞳はなく、あるのは底なしの飢えだけ。私が放つ緊張と若干の恐怖の気配を嗅ぎつけ、それを糧にしようと企んでいる。
「これは⁉」
黒い霧が床を這うように広がり、私の足元へと伸びてくる。霧に触れた壁の塗装がジュワッと音を立てて溶けた。
「ただの幽霊がここまでの力を……もしかして、パラサイトグリードの影響を受けているのか?」
パラサイトグリードを研究している機関が出した研究結果の中に興味深い内容があった。
強力なパラサイトグリードが『半霊体』となったその時、膨大な負のエネルギーが周囲に広がるらしい。その際、まれにそこに未練のある地縛霊が特殊な力を得ることがあるという。
そう考えれば、この霊がとんでもない力を得ている理由に説明がつく。
そしてそれは、この廃病院の中に『半霊体』まで成長したパラサイトグリードがいる証拠でもあった。
「悪いが、君の力は霊が持っていい力ではない。対処させてもらうよ」
右手を軽く握り、そして開く。左腕にはめた赤・青・黄の三色のブレスレットに意識を向けて念じた。
左腕のブレスレットから、赤色の輝きがスッと消えると同時に、私の右手の手のひらからボッ!と真っ赤な炎が燃え上がる。




