第三話 遊園地に潜む悪意――依頼者
柿谷の動きが止まった。彼は眼鏡を外し、スーツの胸ポケットからクロスを取り出してレンズを拭き始める。これはこいつの癖で、興奮を抑えている時の仕草だ。
「噂は本当だったのか。で、どういう事件だったんだ?」
私はあの一週間の話をし始める。
最初はまったく出てこず、一緒に調査をした横目警部と暇を持て余していたこと。
肝試しに来た若者へ注意をしに行ったときに霊と出会ったこと。
そして、ダムから現れた怨念の塊で構成された巨人などなど。
柿谷は前のめりになって、手帳に何やらメモを書いていく。
「ふむふむ。首のない男性の霊が現れ、怨念の塊の巨人が現れたと。ということは、お前はディストレイで戦ったんだな」
柿谷は同じ『心霊現象並びに都市伝説調査組織』メンバーなので、パラサイトグリードの存在を当然知っており、受肉した時には私がディストレイで戦うことも。
「ああ。だけど、それは使えないぞ」
「分かっている。ディストレイを出すわけにはいかないから、霊能力者の特殊なお札とかでカバーするさ」
「あと、どうして霊の首がなかったのかについては、ダム建設のことを調べたら少しは情報が出てくるだろうが、そこは君の豊富な言葉と想像力で補ってくれ」
「任せな。さて……」
早速、柿谷の頭の中では、今回のダム事件についての執筆が始まっているようだ。
私ができるのはここまで。
柿谷がダムの事件をどう料理して素晴らしい作品として仕上げるのか、期待をしながら待つことにしよう。
少し冷めたコーヒーを飲み、悩む友人を誇らしく眺めていると、店のドアベルが再び鳴った。
今度の客は、一人の女性だった。年齢は二十代後半だろうか。きっちりとしたスカートスーツに、長い髪をポニーテールにしてまとめている。姿勢が良く、無駄のない動作で店内に足を踏み入れる。
「失礼します。アンティーク紅の店主、紅翔太さんでいらっしゃいますか」
「ええ、私です。どのようなご用件で?」
女性は私の顔をじっと見つめ、それから柿谷に一瞥をくれた。
「申し遅れました。警視庁心霊対策課の横目警部より、こちらの方を紹介されまして」
彼女が差し出した警察手帳には、『警視庁刑事部 森山花蓮 警部補』と彼女の顔写真があった。
刑事、しかもキャリア組。
三十前で警部補ということは、国家公務員試験を通過したエリートだ。
「横目警部から?」
「はい。事情を話すと、アンティーク紅を紹介されました」
横目警部の紹介だとすると、普通の事件ではないな。




