第三話 遊園地に潜む悪意――オカルトライター柿谷信也
アンティーク紅のカウンターで、私は仕入れたばかりの古伊万里の皿を検分していた。江戸後期のものらしいが、どうも絵付けに違和感がある。贋作の可能性が高いな、とルーペを置いたところで、店のドアベルが軽やかに鳴った。
「よぉ、翔太。相変わらず暇そうだな」
入ってきたのは、スーツ姿の細身の男だった。黒縁の眼鏡をくいっと持ち上げ、にやにや笑いながらカウンターに近づいてくる。中学時代からの腐れ縁、柿谷信也だ。
「お前か。どうせまたロクでもない話でも持ってきたんだろ」
「失礼なやつだな。俺はただ、親友の顔を見に来ただけだぞ」
そう言いながら、柿谷はカウンターの隅に積まれた古書の山を物色し始める。
こいつの「ただ」がただで済んだ試しはない。
「で、本当は何の用だ。オカルトライターの柿谷先生が、骨董品に興味を持ったわけでもあるまい」
「話が早くて助かるよ」
柿谷は古書から手を離し、カウンターの向かいの椅子に腰を下ろした。スーツの内ポケットから取り出したのは、付箋だらけの手帳。こいつの取材ノートだ。
「最近、何か面白いネタはないか? ここ半年、雑誌の連載がマンネリ気味でさ。編集長からも『そろそろ新しい心霊スポットでも開拓しろ』って尻を叩かれててな」
柿谷は月刊『全国オカルト・心霊談』というオカルト雑誌のライターをしている。自身も霊能力者であるため、自分が体験したことや、訊いた話を元にして執筆をしているからリアル感があって評価は高い。
私も彼が泣きついてきた時には、体験したことを彼に提供している。
その代わり、人手が足りない時には柿谷に仕事の手伝いをさせている。
つまりお互いWIN-WINな関係である。
「心霊スポットねぇ……」
私はコーヒーを一口啜り、先月のダムの一件を思い出した。静守ダムの湖底から現れた怨念の集合体。生きたままコンクリートに埋められた作業員の霊。
あの時の戦いは、今でも鮮明に記憶に残っている。
「ついこの間あった体験を話そうか」
「おっ、何だ何だ?」
柿谷の目が、好奇心でぎらりと光る。こいつは昔からこうだ。中学の頃からオカルトマニアで、学校の七不思議を全部検証しに行っては、教師に怒られていた。
「県境のダムでな。首のない作業員の霊が出るって話は知ってるか?」
「静守ダムのか! 知ってる知ってる。十年くらい前からネットで噂になってるやつだろ。でも、あれってガセじゃ……まさか⁉」
「そのまさかさ。中々、大変な事件だったぞ」




