第二話 ダムに現れる首無し男の噂――VSコンクリートの巨人
「ア……タマ……ワタシ……ノ…」
ディストレイの手に包まれた首なし霊が、哀願するような声を漏らした。
「彼の首は、あのコンクリートの巨人の胸にあるのか」
『そうだ。そして、あれはただの怨念の集合体ではない。五十人を超える無念の魂を糧に、パラサイトグリードが寄生し、ついに受肉した姿だ』
巨人が咆哮を上げた。
ダム湖の水が激しく波打ち、堤頂に白い飛沫が降りかかる。
「これは、横目警部に感謝だな。『サテライトビーム』がなかったらと思うと、ゾッとするよ」
『主よ、奴の核は胸の生首だ。首さえ奪い返せば、怨念の集合体は崩壊し、パラサイトグリードも弱体化する』
「わかった。奴の胸から、彼の首を奪い返す! ただ、その前に」
私は首無し幽霊をディストレイの中へ入れる。
彼はコクピットに来ると、戸惑うように体を揺らす。
「コ……コ……ハ?」
「私たちの目が届くところにいた方がいいだろう」
「アリ……ガ……トウ」
私は操縦桿を前に倒した。
背後のブースターを爆発させて、一気にコンクリートの巨人に向かって疾走する。
「グォォォ……!」
巨人の腕が振り下ろされた。凝固した怨念と鉄骨が混ざり合った拳が、ディストレイの正面を捉える。
「アトランリア!」
左腕の盾を前面に展開する。
ガギィン!!
凄まじい衝撃と共に、火花が散った。ディストレイの巨体が数メートル後退する。
「くっ……重い……!」
『翔太、左からも来る!』
カナリアの警告。
巨人のもう一方の腕が、横薙ぎに迫る。
「やっかいな」
私は操縦桿を上げ、左ペダルを踏む。
ディストレイは左腕の盾を上げ、両足に踏ん張りを利かし、盾を右手で添えてきたる衝撃に備える。
ゴーン!
除夜の鐘を叩いたような鈍い音と共にディストレイは、思いっきり横に振られて反対岸まで吹き飛ばされる。
「近接戦は不利か……!」
巨人の表面に張り付いた無数の人面が、一斉に口を開く。
「ウラメシヤ……」
「ナゼ……ワタシタケ……」
「イキテ……カエリタイ……」
怨念の声が、不協和音となってディストレイの装甲を震わせる。
物理的な攻撃力はないが、精神に直接響く呪詛の声だ。
『主よ、耳を貸すな。浄化の炎で防げる』
「ああ! 『浄化の炎』展開!」
ディストレイの全身から、赤い炎が噴き上がる。怨念の声が炎に焼かれてかき消え、人面たちが苦悶の表情で歪んだ。
「今だ! オリルフィア!」
右腕の甲から真紅の剣が飛び出す。
私はディストレイを前進させ、巨人の胸目がけて突きを放った。
「はぁぁっ!」
オリルフィアの切っ先が、巨人の胸の穴を捉える――はずだった。




