第二話 ダムに現れる首無し男の噂――召喚
「不気味ではあるが、そこまでの敵意は感じないんだよね……相棒はどう思う」
私の問いに、巨神の重厚な声が答えた。
『それはそうだろう。主よ、この霊は本体ではないからな』
「本体ではない? じゃあ、本体はどこに?」」
『本体はダムの底に沈んでいる。そして、運が悪いことに、それが目覚めようとしている』
「……何だって⁉」
私は堤頂に立ち、月光に照らされた水面を見下ろした。ダム湖の深さは、満水時で優に八十メートルを超える。その底に、何が眠っているというのか。
「ア……タマ……アタマ……」
首のない霊が、両腕を不自然に伸ばしたまま、ふらふらとこちらに迫ってくる。先ほどまでは緩慢だった動きが、徐々に速まり、狂気じみた執念を帯び始めていた。何しろ十年以上も湖底に沈められた頭部を探し続けているのだ。狂っても仕方がないかもしれない。
『翔太、こいつ、本体が浮上しようとしているから活性化してるんだよ! このままだとダムが……!』
カナリアが警告を叫ぶ。
同時に、堤頂のコンクリートが微かに振動し始めた。
ダムの奥底から、何か巨大な質量が浮上してくる気配。
水面が泡立ち、満月の光を乱反射させながら、中央部が盛り上がっていく。
「まずい、ダムが決壊するかもしれない!」
その時、横目警部から電話が入る。
「もしもし」
『あ、紅さん。若者たちは全員車で逃げています。で、若者と会う前に『心霊対策課』に連絡していましたので、ダムの周辺は封鎖されています。それと、まもなく衛星からビームが注がれると思います。ですので、思いっきりやっちゃってください』
「分かりました。お任せを……聞いていたな、相棒。今すぐお前を召喚するぞ。ただし、今回はなるべくダムが破壊されないように戦わなければならない。万が一、流れ出た大量の水が元通りにならなかった場合のことを考えると……あまり想像したくない。できるか?」
『無論だ、主よ。だが、先にこの霊を拘束すべきだ。本体と合体すれば、さらに厄介なことになる』
「了解! カナリアもサポートよろしく!」
『はーい、任せてよ』
私は左腕のブレスレットを高く掲げた。
「来い、ディストレイ!」
いつもならば、足元に赤い魔方陣が展開されるのだが、今回はダムを守らなければならない都合上、ダムを背にして召喚する方がいいと判断した私は、ダムの上空に魔方陣を展開させる。




