第二話 ダムに現れる首無し男の噂――首無し男
「は? 警備員かよ。うぜぇ」
金髪の男が仲間と顔を見合わせて笑う。
私は横目警部と顔を見合わせた後、彼は一歩前に出て上着のポケットから自分の証明書を取り出した。
「私はこういうものだが?」
「なっ、警察!」
「しかも……警部だと⁉」
さっきまでの威勢はどこへ行ったのやら、顔を真っ青にしながら子猫のように大人しくなった若者に、どうしてここへ来たのかを訊いてみる。
「ふむ。やはり目的は首無し男性の霊か」
「はい。その……もし霊が撮れたら、動画サイトにアップしようかと思いまして……」
今どきの理由で納得した。多分、お酒も入って気持ちが高ぶってしまったのだろう。
「気持ちは分からないでもないが……うん?」
その時、左手のブレスレットが震える。
それと同時に周囲が霊的な力で包まれていく。
「紅さん!」
横目警部にも感じ取れたようで焦った声を出す。二人の態度が変わったことで、四人の若者も周囲を見回す。
「……来るぞ!」
私が振り返ると同時に、堤頂の中央で、空気が揺らいだ。月明かりの下、何もなかった空間から、ぼんやりと人影が浮かび上がる。
作業服。泥に汚れたブーツ。両腕をだらりと下げ、ひたひたと歩く足音。
そして、肩より上に、何もない。
噂通りの容姿である。
「う、うわぁぁぁっ!!」
金髪の男が絶叫した。
仲間たちも悲鳴を上げ、カメラやスマホを放り出して逃げ出そうとする。だが、恐怖で足が縺れ、転倒する者もいた。
「こんな時に!」
私は若者たちを庇うように前に出た。
ブレスレットの熱が増していく。
出現した霊の負の念が、周囲の気温を急激に下げていた。
『翔太、こいつ、ただの地縛霊じゃないよ!』
カナリアの警告が飛ぶ。
『分かっている!』
首のない霊は、ゆっくりとこちらに向き直った。次の瞬間、その両腕が、ありえない方向へ伸び始める。まるで、何かを探し求めるかのように。
そして、空洞の首元から、濁った声が漏れた。
「ア……タマ……ワタシ……ノ…アタマ……ドコ……」
霊の背後で、ダム湖の水面が不気味に波立ち始める。何かが、水底から呼応している。
「これは……このダムの底に、本体があるのか?」
「まずいですね。若者は私が安全な場所へ避難させます」
「お願いします」
横目警部が率先して若者を幽霊から遠ざけるため行動を開始してくれる。
若者は彼に任せて私は、迫り来る霊と、その背後で蠢くダム湖の闇を前に、一人立ち尽くす。




