第二話 ダムに現れる首無し男の噂――肝試し
『翔太、つまんないよ〜』
突然現れたカナリアが洗濯機の上に座り込み、小さな足をぶらぶらさせている。
私しか見えない彼女の姿は、いつもより心細げだ。
「仕方ないだろ。仕事なんだから」
『でも、一週間も張り込んで何もなしって、これって逆に凄いことだよね。普通、心霊スポットなら一晩に一回くらい何かあってもいいのに』
「それが気になるんだ。目撃証言があれだけ多いのに、なぜ今は現れない? 何か条件があるのか」
顔を洗って冷たい水で目を癒した後、再びモニターの前に行き手元の資料を見る。
目撃された日時は、いずれも新月か、その前後の暗い夜。天候は曇りか小雨の日が多い。時間帯は午前二時から三時にかけて。出現場所は堤頂の中央付近。
「新月……」
今日は満月だ。次の新月まで、まだ十日以上ある。もしかすると、月齢が関係しているのか。
「しかし、そうなると調査期間を延長しないと」
『翔太、無理しなくても……』
「おっと、これは……」
カナリアが言いかけた時、モニターを見ていた横目警部が声を上げる。
その映像は湖畔の遊歩道に設置したカメラだ。
横目警部は画面を拡大する。
映っていたのは、四人の若者のグループだった。いずれも二十代前半の男性で、懐中電灯を手に、何やらふざけ合いながら歩いている。
「あー、おそらく肝試しですね」
時刻は午前二時を回っている。彼らの様子を見て横目警部はそう思ったようだ――ちなみに私も同意見である。
「うーん、気持ち的にはこのまま見守ってあげたいけど」
私は判断を横目警部に委ねる。彼も難しい面持ちで腕を組み唸る。
「幽霊が目撃されているだけではあるけど、万が一ってこともありますので注意ぐらいはしに行きましょう」
二人はイスから立ち上がり、上着を着て事務所を出た。
夜のダム湖は静まり返り、満月の青白い光が水面に反射している。
堤頂へ向かう遊歩道を早足で進むと、若者たちの甲高い笑い声が聞こえてきた。
「おいおい、マジで出んのかよここ!」
「ネットで見たけど、首なしのオッサンが歩いてるらしいぜ」
「写真撮れたらバズるっしょ!」
酒の匂いが風に混じる。酔っているのか、四人は手にスマートフォンやカメラを持ち、我先にと堤頂へ向かっていた。
「そこの君たち」
私が声をかけると、若者たちは一斉に振り返った。リーダー格らしい金髪の男が、私たちを見て露骨に舌打ちをする。
「あ? なんだおっさんたち」
「現在、この場所は封鎖中だ。早く帰りなさい」




