第二話 ダムに現れる首無し男の噂――準備
「どうして、今になって霊が現れ始めたのだろうか」
こういう場合、何かしらの原因が一年以内に起こっている可能性がある。
例えば、封印を開放したとか、神聖な場所を壊したとか、あるいは――。
『パラサイトグリードに寄生されたとか?』
「おい、相棒。私の心を読まないでくれないか?」
『はははは。それは無理な相談だ。我は主の心に住んでいるのでな。どうしても、主の考えていることは分かってしまうのだ。もちろん、主の好きな女性のタイプやアイド――』
「ストップ! それ以上はだめだ。私のプライバシーに関わる」
心の中でディストレイと会話できることは、素晴らしいメリットではあるのだが、このように私の考えていることが、全て筒抜けなのはデメリット過ぎる。
あんなことやこんなことまでならギリギリ許容範囲内ではあるが、私も年頃の男性でありムフフなことを考える時だってある。それがディストレイに筒抜けとなると――。
『安心してくれ、主よ。そう言ったことは神に誓って誰にも言わない。神の剣だけにね……はははは』
ダメだ。
信用ならない。
なるべくそういう卑猥なことは考えないようにしよう。
「話を戻すぞ。『心霊対策課』はこのまま放置すれば、いずれ実体化して一般市民に危害を及ぼす可能性あるから調査をして欲しいとのことだ。なので、これから行くぞ」
『ああ』
私はノートパソコンを閉じ、立ち上がった。
店の奥から、調査用の機材を開けて確認をして準備をする。
「小型カメラ、録音機、温度計、サーモグラフィーー」
翌日の夕方、私は静守ダムの管理事務所を訪ねた。
五十代半ばの管理責任者、田村という男が、私の身分証を確認すると、深々と頭を下げた。
「わざわざ遠くからありがとうございます。実は我々も、どう対処していいかわからなくて……」
「いえ、これも仕事です。まずは現場を見せていただけますか」
田村に案内され、私はダムの全景を一望できる展望台へと向かった。
夕日に染まる巨大な堤体は、なるほど壮観だ。アーチを描くコンクリートの壁面が、両岸の山肌を繋ぎ、その奥には満々と水を湛えたダム湖が広がっている。
「きれいな場所ですね」
「ええ、昼間は。ただ、夜になると……」
田村は言い淀み、首を振った。
「私がここの管理責任者になって八年ほどになります。前任の管理責任者からは、このダムには“出る”と言われていましたが、私自身一度も見たことないので、ただの噂程度にしか思っていなかったのですが、ここ半年ほどで六回も見てしまったのです」




