第二話 ダムに現れる首無し男の噂――電話
「よし、これで……終わった!」
パソコンの画面から目を離した私は、背もたれに体重を乗せて思いっきり体を伸ばす。
四日前に起きた群馬の事件の詳細を、『心霊対策課』に渡すために、試行錯誤しながら長い文章を書いて報告書を作成したのだ。
出口のないトンネルを彷徨っていたが、ようやく出口を見つけて外へ出た私の気分は最高で、イスから立ち上がりスキップで奥へ行き、棚からポテトチップス(のりしお)を取り出し、ブレイクタイムと洒落込もうとした時だった。
ポケットに入れていたスマホが震える。
こんな時にいったい誰だろ。
私はスマホを取り出し画面を見る。
『横日琢磨』
「うわっ、『心霊対策課』からかよ」
一気に気分が沈んでしまった私は、大きくため息をついてスピーカーモードにする。
「もしもし?」
『お疲れ様です、横日です』
「お疲れ様です。それで、何の用でしょうか? 作成した報告書に誤りでも?」
『いえいえ、報告書は完璧です。実は調査してほしい場所がありまして……』
「それは心霊スポットですか?」
『です。詳しくはメールで送りましたので、確認をお願いします』
それだけ言って、電話は切れた。
「はいはい、私には拒否権なんてありませんよ」
文句を口にしながら、再びイスに座りパソコンを開くと確かに『心霊対策課』からのメールが届いている。
私はクリックをしてメールに添付された資料にざっと目を通す。
現場は県境をまたいだ山間部にある「静守ダム」。全長三百メートルを超える巨大なアーチ式ダムで、竣工から五十年が経過している。周辺はキャンプ場や展望台も整備された観光地だが、一方で「首のない男性の霊が出る」という怪談が十年ほど前から囁かれているという。
「ダムか。ここもまた、心霊スポットでは有名な場所ではあるが……首のない男性か」
資料には複数の目撃証言が並んでいた。いずれも深夜、ダムの堤頂を歩く作業服姿の男。
肩より上がすっぽりとなく、両腕をだらりと下げて、ひたひたと歩いているという。これまでの目撃者はみんな、特に危害を加えられたわけではない。ただ、あまりに異様な光景にパニックを起こし、全速力で逃げるのが常だった。
「危害なし、か。目撃者も逃げられているようで、一安心ってとこかな」
組織が問題視しているのは、最近になって目撃頻度が急増している点だ。十年前は年に一、二件だったのが、ここ半年で月に十件にまで増えている。しかも、霊の出現する時間が少しずつ長くなり、範囲も広がっているらしい。




