第一話 呪いの骨董品――腐食の力
ディストレイの左腕に装備されているアトランリアを思いっき突き立てる。
ガギィン!!
相手の時間を奪っていた氷は、主であるディストレイの攻撃を受けて粉々に砕け散る。砕けた氷の破片は、まるでダイヤモンドダストのように細かな粒子となって舞い上がり、結界内に幻想的な輝きを撒き散らした。光の粒子に混じって、村人たちの霊が、ようやく苦しみから解き放たれたように、淡く微笑みながら昇天していく。
「よし、拘束は解けた!」
私がディストレイを後退させると、赤子の腕の群れもまた凍てつき、呆気なく粉々に砕け散った。
『よくやった、主よ』
しかし、安堵の声を上げる間もなく、異形の女体が新たな動きを見せる。斬り裂かれた傷口が、どす黒い羊水のような液体を滴らせながら、みるみる塞がっていくのだ。
「再生した⁉」
『どうやら、『浄化の炎』の部分を切り捨てているようだ。『浄化の炎』に触れていなければ、再生できるからな。中々賢いな』
「相棒、感心している場合では――」
『翔太、あいつ、自分の腹を裂いてる!』
カナリアの叫ぶ通り、敵は自らの腹に手をかけ、自傷行為のように左右に引き裂いた。裂け目から、今度は十体の異形が這い出てくる。
妊婦の亡霊だ。
彼女たちは、裂かれた腹を抱えながら、ディストレイに向かって手を伸ばしてくる。その目は虚ろで、口々に同じ言葉を繰り返していた。
「あかちゃん……あかちゃんを……かえして……」
「私の……私のお腹の子を……」
十体の亡霊が、まるで救いを求めるかのように、ディストレイに縋りついてくる。しかし、その手が触れた装甲が、ジュワッと音を立てて溶け始めた。
「くっ、これは……!」
先ほどの 赤子の手は掴むだけの機能だったのに対して、こちらの母親の手には物理的な腐食能力を持っていた。装甲の表面が、彼女たちの触れた箇所から泡立ち、溶け落ちていく。
「言葉といい、手といい、このパラサイトグリードの能力は腐食らしいな。だが、それは通用しない。相棒!」
再び装甲から『浄化の炎』を出して、掴む手を燃やし失った個所を復元していく。
最早、ディストレイにとって腐食の力は脅威ではなかった。
私はオリルフィアを再度構えなおし、新たに現れた亡霊たちに狙いを定めた。
『主よ、あの亡霊たちに囚われてはならぬ。あれらは奴の分身に過ぎぬ』
「おいおい、相棒。私がそんな慈悲深い人間に見えるか?」
『愚問だったな。敵であれば、どんな相手でも徹底的に倒すのが紅翔太という男だ』
「分かっていればいい」
ディストレイの左腕、アトランリアが前面に展開する。盾の先端の刃が半分に割れ、中央の大宝玉が眩い黄色の光を放った。




