第一話 呪いの骨董品――災い
「開けてはいけない、か」
私は息を整え、感覚を研ぎ澄ませた。お札で覆われた部屋の中に、何かの気配はないか霊能力で探していく――あった。
かすかだが、間違いない。お札の向こう、壁のさらに奥から、どす黒い負の感情の残滓が、染み出すように漏れ出している。
「井上さん、この奥に、もう一つ空間はありますか?」
「え? いや、ここが最奥だと思いますが……」
彼女が言い終わらぬうちに、私は隠し部屋の中へ足を踏み入れた。お札を踏まぬよう注意しながら、最も貼り札が密集している正面の壁に近づく。
手をかざすと、壁越しに感じる冷気――その奥には心霊スポットでは味わうことのない遥かに濃い恨み、妬み、嫉妬、復讐といった様々な負の感情が明確に感じ取れる。
「紅さん……?」
井上が不安そうに私を呼ぶ。
その声に振り返らず、私は両目に霊力を溜めて壁を軽くノックした。
コン、コン――私の霊力が波紋となり次々と奥へと進んでいく。畳十畳分の部屋のさらに奥には一畳もない小さな空洞があり、そこには小さな壺の輪郭が見て取れた。
「井上さん、お祖父様は、なぜこの部屋を開けてはいけないと?」
「ええと……その……『災いが起きるから』とだけ。詳しくは何も」
災い。
この異様な封印を見れば、冗談ではないことがわかる。私は決断を迫られた。このまま立ち去るべきか、それとも――。
「井上さん、申し訳ありませんが、少しだけこの壁を調べさせてください。場合によっては適切な対処を行わなければならない可能性もありますので」
「え? 何かあるんですか?」
「まだわかりません。ただ、お祖父様がここまで厳重に封をしていたということは、何か理由があるはずです」
私は彼女に外で待っているよう伝え、一人でお札だらけの部屋に残る。
「相棒、聞こえるか?」
ブレスレットに意識を集中させて、ディストレイの見解を尋ねる。
やがて三色の光が呼応するように明滅し、やがて頭蓋骨の内側に直接響くような重厚な声が届いた。
『聞こえている、主よ』
「この部屋の奥から、強大な負の気配を感じる。パラサイトグリードかと思ったが、それにしてはかなり強力なもので私には判断がつかない。お前の見解を聞かせてくれ」
沈黙が落ちた。
ディストレイが何かを探るように、ブレスレットの光がゆっくりと脈打つ。
数十秒ほどの静寂の後、ディストレイの声には、珍しく警戒の色が滲んでいた。
『まず初めにこの場所はかなり危険だ。そして壁の向こうに封じられているのは、確かにパラサイトグリードで間違いはないが、まだ霊体だ』




