第一話 呪いの骨董品――開かずの間
真剣な表情で持参した道具一式を作業台代わりの座卓に広げた。ルーペ、筆、鑑定用の小型ライト、手袋、そして簡単な清掃用具。アンティーク紅のカウンターに座っている時とは違う、現場ならではの緊張感が走る。
二時間が経過した頃には、座卓の周りには「売却可能」「要相談」「価値なし」とラベルを貼った品々が山のように仕分けられていた。掛け軸は明治期の無名画家の作で、状態も良く、ある程度の値はつくだろう。漆器の重箱は残念ながら修復不可能なほど痛んでいる。壺は――これは後世の模造品だ。
「ぐふふふ。素晴らしい」
喜びを隠せず、気持ち悪い笑みをこぼしながら、掘り出し物をうっとりと見つめていた時だった。
「紅さん、少しよろしいですか?」
声をかけられた私は一瞬ビクついた後、
「どうかしましたか?」
といつもの営業スマイルで対応――しようとしたのだが、井上が不安げな表情で部屋の入り口に立っているのを見て、首を傾げた。
「あの、実は……」
彼女は言いづらそうに手をもみながら、私を廊下へと促した。
「祖父から聞いていた話で、どうしても気になることがあって」
彼女が連れて行ったのは、家の一番奥まった場所だった。一見すると何の変哲もない板壁だが、彼女が押入れの襖を開け、奥の壁を手で押すと――ギギギ、と鈍い音を立てて、壁の一部が奥へと開いた。隠し扉だ。
「ここ、祖父が生前に『絶対に開けるな』って言っていた場所らしいです。でも、処分する前に一度だけ、せめて中を確認しておこう、ということになって……」
彼女の声は震えていた。
私は隠し扉の奥を覗き込んだ。
「なっ⁉」
瞬間、全身の毛が逆立つような悪寒が走る。
隠し部屋――その内部は、異様だった。
床、壁、天井、ありとあらゆる面に無数のお札が貼り巡らされている。黄ばんだ紙に書かれた墨字は、かすれて判読できないものも多いが、見覚えのある梵字も混じっていた。どれもこれも、封じるための呪符だ。しかも、素人の書いたものではない。霊能力を持つ者が、本気で何かを封じ込めるために書いた、本物の札だ。
「こ、これは一体……ん⁉」
私は左腕のブレスレットが、じわりと熱を帯びるのを感じた。三色の光が、警告するように淡く明滅している。
「い、井上さん」
言葉を探す私に、彼女は早口で説明を始めた。
「祖父は昔から、この家には『開かずの間』があるって言っていて。でも場所は教えてくれなかったんです。ただ、絶対に探してはいけない、ましてや開けてはいけないって」




