第一話 呪いの骨董品――彼女の祖父の家に到着
土曜日の朝、私は店のシャッターを下ろし、車で群馬へと向かった。
車窓から見える田園風景が、都心の喧騒を少しずつ遠ざけていく。秋の収穫を終えた田んぼが広がり、その先にこんもりとした山並みが連なっている。
窓を開けると、秋の風が入り込み、秋特有の柔らかい匂いと優しい風が心地良く、仕事じゃなければ、このままピクニックへ行きたい気分である。
「おっ、カーナビの指示だとあの家か」
依頼者の家は小高い丘の上にあった。築百年は経っていそうな木造の一軒家で、広い庭には柿の木が実をつけている。ただ、家全体がどことなく翳んでいるような、薄暗い印象を受けた。
道なりに沿って入口の坂を上ると、
「紅さん、こちらです」
依頼者の井上とそのご家族が歓迎をしてくれた。
「わざわざ遠くまでありがとうございます」
「いえ、これも仕事ですから」
家の中は、かび臭さと古い畳の匂いが混ざり合い、長い年月を閉じ込めたような空気が漂っていた。廊下のあちこちに積まれた段ボールや家具の間を縫うように、井上明里の案内で奥へと進む。
「祖父はとにかく何でも集める人でして……特にこの部屋が凄いんです」
「おおおお」
彼女が障子を開けると、私は思わず息を呑んだ。
八畳ほどの和室いっぱいに、骨董品の山が築かれていた。古い掛け軸、黄ばんだ壺、漆塗りの重箱、欠けた陶器の人形、年代物の蓄音機――それらが整然と並べられているのではなく、まるで雪崩でも起こしたかのように無秩序に積み重なっている。埃っぽい空気の中、私は室内を見回した。明らかに価値がありそうな品もあるが、大半は素人目にはただのガラクタだ。
「なるほど、これは骨が折れそうだ」
「やはりそうですよね……」
井上は申し訳なさそうに俯いた。
「ああ、勘違いなさらないでください」
「えっ?」
「みなさんにはガラクタに見えると思いますが、私にとっては宝の山です。このような宝探しに呼んでいただいて、むしろ感謝しているくらいです」
私が子供のように明るい笑顔を向けると、さっきまでの暗い表情は消えて彼女の優し気な笑みが見える。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。ただ、さすがにこの量なので、数時間は欲しいものですが……大丈夫ですか?」
少し引きつった顔で尋ねると、彼女は口元に手を置いて笑った。
「もちろんです」
そして彼女は、背後でダンボールを抱えて廊下を行き来している、両親と兄弟とその家族の元へ歩いていく。




