第一話 呪いの骨董品――鑑定の依頼
今日も今日とて、店は暇を持て余していた。
カウンターに肘をつき、アンティークの雑誌めくりながら、どんな商品が人気なのか調査をしていたところ、店のドアベルがカランコロンと鳴った。
顔を上げると、若い女性が立っていた。三十代前半だろうか、黒いスーツを着たきちんとした印象の人だ。少し緊張した面持ちで店内を見回している。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
声をかけて立ち上がった私を見て、女性はホッとしたように近づいてきた。
「あの、紅翔太さんですか? お祖父様からお店を受け継がれたという……」
「ええ、私です」
彼女は名刺を差し出した。
名を井上明里。デザイン事務所に勤めるグラフィックデザイナーだという。
「井上さんですね。今日は、どういった相談でしょうか?」
「実は、先月祖父が他界しまして……群馬の一軒家が空き家になってしまったんです」
「それはご愁傷様です」
「ありがとうございます。私も両親も相続する気はなくて、家ごと処分することにしたんです。ただ……」
女性は少し言いづらそうに言葉を濁した。
「祖父が骨董品を集めるのが趣味で、家にたくさんあるんです。どれに価値があるのか全くわからなくて」
「なるほど」
骨董品の処分か。
そういう依頼は時々ある。
案外、骨董品の処分というのは大変なもので、自治体に回収してもらうか、直接ゴミ処理施設へ持っていかなければならない。そうなれば労力や費用もかかってしまう。
その点、我々に依頼をすれば、高額での売却が期待でき、手元に代金が転がり込んでくる可能性もある。
彼女のように家を処分するとなると、その費用も膨大になるだろう。少しでも返ってくる可能性があるため、私のようなプロに頼むことは素晴らしい選択だといえる。
「お任せください。ご家族で掃除をされる日にお伺いして、品定めをさせていただきます」
「本当ですか! 助かります。次の土曜日に家族で集まるんです」
「次の土曜日ですね……承知しました」
私はスケジュール帳に『群馬・骨董品鑑定』と書き込んだ。
ただの鑑定の仕事。
そう思っていた。
この時までは。




