第六話 白鷺会若頭・真田圭吾――異界突入
「半年前の動画で、紫の女は突然現れて突然消えた。あれはおそらく壁の中にあるこの影に潛んでいたからだ」
「……つまり、この影の向こうに別の空間があると?」
私は地面から小石を掴んでその影に投げる。
「なっ⁉」
小石は壁に弾かれることなく、影に吸い込まれるように消えた。
「これはパラサイトグリードの能力だろう。あの女は現実世界と影の中を行き来できる。そして影の中から人を引きずり込んでいたんだ」
私は右手を壁に近づけた。
影からはかすかに冷気が漏れ出している。
間違いない、ここが入口だ。
「どうしますか、師匠。この影を破壊してみます?」
「ふむ……相棒、あの影から何か感じるか?」
ここはディストレイに意見を求めよう。
『ああ。この影は現実と異界をつなぐ門だ。おそらく、あの女の本体は異界に潛んでいる。門を破壊すれば、女は現実世界に出てこれなくなるが、逆に言えば異界に閉じ込めることになる』
「異界に閉じ込める……」
『ただし、この門は非常に強固だ。生半可な攻撃では破壊できない。それに、門を壊せば女が異界に取り残されたままとなり、彼女に奪われた魂も回収できなくなる』
「それは困るな。となると、私たちが門を通って、相手のテリトリーに入るしかないってことだな」
『そういうことだ』
「入り方は? 小石みたいにこの影に触れたら異界へ行けるのか?」
『それで問題ない。影に触れたらそのまま異界へ行けるはずだ』
私は圭吾に状況を説明した。
「……分かりました。では、早速行きましょう」
「ああ」
私は圭吾と並び壁の影に手を触れた。
その瞬間、強烈な浮遊感が私たちを襲った。
視界がぐにゃりと歪み、トンネルの景色が遠ざかっていく。闇が私たちを包み込み、そして私たちは異界へと足を踏み入れた。
異界へ足を踏み入れた瞬間、私は言葉を失った。
そこは廃トンネルの中だった。
しかし現実のトンネルとは違う。
壁も天井も床も、すべてがねじ曲がり奥へ奥へと続いている。現実では五百メートルしかないはずのトンネルが、ここでは無限に続いているかのようだった。
「なんだ、ここは……」
圭吾が息を呑む。
その声が歪んだ壁に反響して、複数の声となって返ってくる。空気は生ぬるく、じめじめとした湿気が肌にまとわりついた。
「気を抜いてはいけないぞ。ここはパラサイトグリードが作り出した異界。我々の常識は通用しない……と思っておいてくれ。正直、気持ち悪くて今すぐ帰りたい」
「ですね。さっさと終わらせて帰りましょう」




