第六話 白鷺会若頭・真田圭吾――影
「ああ。紫の服の女だ。間違いない」
私たちはさらに奥へと進んだ。
トンネルの終わりはまだ見えない。
しかし、確実に何かが私たちを誘い込んでいる。
その証拠に、さっきから私たちの足音以外に、もう一つの足音がついてきている。
「翔太、これ……」
カナリアが不安げな声を上げる
「わかってる。向こうは私たちを中に入れたいんだ」
私は圭吾に目をやった。
彼の顔は緊張しているが、恐怖に飲まれている様子はない。
さすがだ。伊達に私の弟子を名乗っていたわけではない。
「行くぞ。向こうが誘うなら、こちらも乗ってやらないとな」
「はい」
私たちは歩調を合わせトンネルのさらに奥へと進んでいった。
闇が私たちを包み込む。しかし、その闇の中に確かに何かがいる。
私たちはそれを追い、そして追われながら事件の核心へと近づいていた。
トンネルの端まで到達したが紫の女は現れなかった。
私たちは一度立ち止まり、辺りを見回した。
ヘッドライトの光が古びた壁を照らし、水滴の音だけがやけに大きく響いている。
「師匠、どうしますか?」
「もう一度通ってみよう。今度は気配を探りながら行く」
「わかりました」
私たちは向きを変え来た道を戻り始めた。
足音が反響する。
それ以外に音はない。
先ほどまで私たちを尾行していた足音も、今はぴたりと止んでいる。
しかし気配は確かにトンネル内に充満していた。まるでトンネル全体が一つの生き物のように、私たちを包み込んでいる。
「気配はある。だが位置が特定できない」
「ええ。俺も感じます。近くにいるのに、どこにいるのかわからない。まるで壁の中にでも潛んでいるような……」
圭吾の言葉に、私は足を止めた。
「壁の中……?」
「どうかしましたか?」
私は壁に近づき、ヘッドライトでその表面をじっくりと照らした。古びたコンクリートの壁。ひび割れや落書きが無数に刻まれている。しかし、その中に一つだけ異質なものがあった。
「圭吾、この影を見てみな」
「影……ですか?」
「ああ。ライトを当てても消えない影だ」
壁には、女性のシルエットが黒く張り付いていた。ヘッドライトの光を当てても、その影は消えるどころかむしろ濃さを増している。まるで光を吸収しているかのようだ。
「これは……まさか」
私は影に手を当てて気配を探る。
「微かだが、ここから負の念が感じられる」
私は壁から一歩離れ影全体を観察した。
高さは一メートル六十センチほど。女性の輪郭をくっきりと保っている。髪は長く、腕はだらりと下がっていた。顔の部分だけが、黒い空洞のようになっている。




