第六話 白鷺会若頭・真田圭吾――遭遇
私たちは慎重に歩を進めた。
トンネル内は完全に暗闇で、ヘッドライトの光だけが頼りだ。壁は古びたコンクリートで、ところどころにひび割れが見える。
天井からは水滴が落ち、その音がやけに大きく反響する。
「師匠、あれを見てください」
圭吾がライトで壁の一点を照らした。
そこには無数の落書きがあった。
『ここから出して』
『助けて』
『もう帰りたい』
どれも若者たちがふざけて書いたものだろう。しかし、その中に一つだけ異質なものがある。
『紫の女に会った。明日、私は消える』
震える字で書かれたそのメッセージ。
日付は半年前。
おそらく、あの動画の投稿者だろう。
「やはり、ここであの動画は撮られたんだな」
「ええ。それに……」
圭吾が指さした先落書きの下の地面に何かが落ちている。近づいて拾い上げると、それは小さな携帯電話だった。画面はひび割れ、バッテリーはとうに切れている。
「これは……」
「おそらく投稿者のものだね。回収しておこう」
私は携帯電話をポケットにしまった。その時だった。
カタン。
トンネルの奥から、小さな物音が聞こえた。まるで何かが倒れたような音だ。
私は反射的に身構えた。
「圭吾」
「わかってます」
私たちは背中合わせに立ち周囲を警戒した。
ヘッドライトの光がトンネルの奥を照らす。
しかし、そこには何も見えない。
ただ闇が続いているだけだ。
「気のせいか?」
「いや……」
圭吾が首を振る。
「今、確かに何かの気配を感じた。それも、かなり近くに」
私たちは再び歩き出した。トンネルの中腹に差し掛かった時、私はふと違和感を覚えた。
足音だ。
私たちの足音以外に、何かがついてきている。
「圭吾、足音を止めろ」
私たちは同時に立ち止まった。
すると、遅れて聞こえる足音。
コツコツ、コツ。
それは私たちの足音を真似るように、一定のリズムで響いている。
「後ろだ」
振り返る。
ヘッドライトの光がトンネルの入り口方向を照らす。
しかし、そこには誰もいない。ただ私たちの影が長く伸びているだけだ。
「気のせい……ではなさそうですね」
「ああ。何かが私たちを尾行している」
その時、カナリアが私の耳元でささやいた。
「翔太、上」
私はとっさにヘッドライトを天井に向けた。
その瞬間、光の中に一瞬だけ何かが映った。
紫の服、青白い顔。
そして、こちらを見下ろす不気味な笑み。
「いた!」
しかし、次の瞬間にはもう消えている。天井には何もない。
ただ古びたコンクリートがあるだけだ。
「師匠、今の……」




