第六話 白鷺会若頭・真田圭吾――調査
しかしそれも入り口から十メートルほどで消えている。まるで、そこから先は徒歩でしか進めないとでもいうように。
「翔太、なんか嫌な感じがするね」
カナリアが私の肩で小さく身震いした。
「ああ。負の念が渦を巻いている。これは並の霊障じゃない」
私は左手のブレスレットを確認した。
三色の宝石がかすかに脈打っている。
ディストレイも警戒しているようだ。
やがて、遠くからエンジン音が聞こえてきた。山道をゆっくりと上がってくる高級車。ヘッドライトの光が木々の間を縫うように揺れている。やがてそれは私の車の後ろに停まった。
ドアが開き、黒いジャージに身を包んだ男が降りてくる。
真田圭吾だ。今日はスーツ姿ではなく、動きやすい服装をしている。
さすがにこれからトンネルに入るという自覚があるのだろう。
「師匠、待たせました」
「いや。ちょうどいいところだ」
圭吾は私の隣に並びトンネルの入り口を見上げた。その表情は冷静だが、目は鋭く周囲を見渡している。元々勘のいい男だ。すでにこの場所の異常さを感じ取っているはずだ。
「で、何かわかりましたか?」
「ああ。柿谷から情報を得た」
私はスマートフォンを取り出し、彼にこれまでの情報を共有した。
戦時中のトラック消失事件。
運転手の自殺。
最近の『人が消える』という噂。
そして半年前に投稿された心霊動画の存在。
「動画の最後で、一人の男が消えた?」
「ああ。おそらくあのトンネルの中には、人を『消す』力を持った何かがいる。それが半年前の投稿者にも、今回の宮下たちにも襲いかかった」
圭吾は腕を組み、しばらく考え込んだ。
「紫の服の女……戦時中の事件とは関係なさそうですね」
「ああ。あの女はもっと新しい。だが、何らかの形でこのトンネルに縛られている。そこまで調べたかったが、残念ながらタイムアップだ」
「とにかく、中に入って確かめるしかないか」
「そうだな」
私は頷き、ヘッドライトを装着した。圭吾も自分のライトを点ける。二つの光がトンネルの闇を照らし出す。
「行くぞ」
「はい」
私たちは並んでトンネルの中へと足を踏み入れた。
入り口から数歩進んだところで、私は足を止めた。
空気が変わったのだ。
外の冷たい風とは違い、ここは生温かくそれでいてまとわりつくような湿気を帯びている。
「圭吾、感じるか」
「ええ。これは……普通の霊障じゃない。何かがいる。それも、かなり強い」
圭吾の声が緊張を帯びた。
彼もまた、ディメンダムの契約者としての勘が働いているのだろう。




